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騙し討ち?
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午後、奴に連れ出され電車を乗り継ぎ高層ビルの立ち並ぶ街中へやって来た。
久々の人混みに道を歩くことすら上手くできない。来る人来る人にぶつかりそうになる。
「…ほら、もっと寄れ」
そんな僕を見かねてか、アイツの腕が伸びてきて僕の肩を抱いた。急なことでビクン、と跳ねてしまった肩。
そして、人1人分の距離を埋められて、奴のすぐ傍まで引き寄せられた。
「ちょっ!こんな人混みで!」
「気にすんな」
無意識に熱が頬に集まる。い、意識なんてしてないから!ただ…アレだ。恥ているだけだ!
逃げ出そうともがけばさらに引き寄せられ、身動きもままならない距離。
すれ違う人とぶつからないかわりに、寄越される視線。
いや!見るな!
恥しくて、いたたまれなくなって、アイツの顔を仰ぎ見るけど涼しそうに澄まして知らんぷりされる。
くっそ……。
「お前!本当に離せ!」
「暴れるな。それと、お前って誰?」
ずぃっとわざと近付いてきた顔。後少しで唇と唇が触れそうな至近距離で、囁くなんて…ずるい。
「く……遥、海。お、大人しくするから、そんな引き寄せんな」
「んー。仕方ない」
耐えかねてアイツに懇願すると腕の力を緩めてくれた。顔がスっと離れ、変に詰めていた息を吐き出す。
それでも、こんな真昼間の大通りで男が肩を組んで歩いてるなんて異端すぎる。
さらに付け加えるなら、隣のヤツは認めたくないけどイケメンというやつなんだ。
…こんなことなら、女の子っぽい格好でもすればよかったかな。
いくら僕が可愛くたって、服装的にも髪型的にも男にしか見えないし、身長も女子の平均よりはあるし。
もうこうなったは俯いてやり過ごすの術。
「いつ着くの!?」
「もう着くから、我慢」
お前が離せば済む話なんだが。
どうせそう言ったって離してくれないし、暴れても無理だし悪目立ちするし、僕は到着するまで大人しくしていた。
「はい、着いた」
自動ドアを潜りやっと魔の手から逃れることが出来一息つく。
そして顔を上げ、目をぱちくりさせてしまった。視界に広がったのはたくさんの服。さらに店の雰囲気からして、安い所では無さそうだ。
白で統一された店内。ごちゃごちゃ服が並べられているのではなく、ある程度余裕のあるスペースと、お洒落なマネキンが中央に並んでいた。
そして、気になったのは服の種類。右側はメンズ、左側はレディースという結構珍しい配置をしている。
こいつ…こんな高そうなとこで服買ってんのか!?羨ましい…。
僕なんか2着で1999円とかザラにあるのに。
「買い物かよ」
「まぁそんな感じだな」
「は?どういう意味だ?」
アイツは含み笑いを浮かべ僕を見据えた。
嫌な予感がする。
「俺はこれから撮影がある」
「マジかよ」
「だけど、今日女の子のモデルの人数が足りてないみたいなんだよ。このままじゃ中止になってしまう」
「へーどうすんだよ?」
「どうすると思う?」
奴の笑みが深まり、僕のことを上から下まで舐める様に見られた。
あぁ…やばい。僕はここに居てはいけない。
本能が身の危険を察知して黄色信号を通り越して赤いサイレンを響かせた。
「──帰るっ!!」
「はい、残念。泪くん?」
一気に走れば逃げられると思った僕が甘かった。走り出すより先にアイツの手が腹に回りガッチリと抱え込まれた。
「やーめーろ!!」
体格的にも力的にも敵わない。ジタバタ暴れて、せめて店員に助けてもらおうと声を張り上げたところで──
「ちょっとー何やってるんですか??」
棘のある…という表現よりは、呆れたような声色の女性の声がかかった。
「あのっ!助けてください!痴漢です!」
「バカ」
女性に向かってそう告げたら、頭をパコっと叩かれた。
「気にしなくていいですよ」
「いやぁさすがに気にしないのは無理でしょ。全く、久々に来たと思ったら…」
その女性は奴と親しい間柄のようだ。奴が敬語を使っているところを見ると歳上だろうか。
女性は僕達の背後に立っているから顔が見えない。
「それより、今暇ですよね?」
「はー?急に来てまた暴言吐くわね、相変わらず」
「それはどうも。俺達これから撮影あるんですよ。それでお願いが1つ」
「えーめんどくさそう」
…いや、とりあえず離せ!僕のことをスルーして話を進めるな!
『俺達』じゃない!僕は撮影なんて聞いてないし、出る気もないんだけど!!
「ちょっ!お前!勝手なこと言うな!」
「…そろそろ離してあげたら?」
「お願いっていうのがコイツの事です」
話が全然噛み合ってませんけど!!
暴れて逃げようとしていた僕を突如持ち上げ、その女性の前に献上された。
「あら……」
「っ…!!」
バチッと視線があい、女性は僕の顔を見てから驚いたような声を上げ、そして頷きながらジロジロと遠慮なく僕のことを隅々まで見てくる。
逆に僕は突如目の前に現れた、美女に目を奪われた。
美しい黒髪のロングヘアーと真っ黒な吸い込まれそうな大きな瞳。そして、日本人離れした高い鼻と透き通るような白い肌、ぷっくりとした赤い唇。
手足もスラリと長く、僕より身長は勿論高い。斎之内遥海と並んでも見劣りなど一切しない。
これが本物の美の女神…?
そんな美しい彼女からの無遠慮な視線に居心地の悪さが生まれる。
今更感はあるが、こんな美しい人の前で裏を出せるはずもなく、大人しく彼女の観察が終わるのを待っていた。
…このとき逃げておけばよかったのに。
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