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女の子
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鏡の前に立たされた僕は、逃げていた現実を突き付けられた。
美女に拘束され、逃げるに逃げられず、その結果今鏡の中にたっている僕は、僕であって僕じゃない。
「キャー!いいわぁ!うっとりしちゃう~可愛い~!!」
美紗希さんは僕の隣で悶えている。
もう、してやられたとしか言えない。全部アイツのせいだ。
「お。いい感じだな。これなら問題ないですね」
「当たり前でしょ!!」
2階から下りてきた奴は、髪型が少し変わった。
2階はどうやら美紗希さんの弟さんが経営する秘密の美容室のようだ。会員制で予約必須の実は凄い所らしい。そして、ここorangeは2人のお母様が経営しているとか。オシャレ一家だ。
「泪くん!こっち向いて!」
美紗希さんに言われるがまま反転した僕。その動きに合わせてなびくのはパステルピンクのフレアなスカート。もう一度言う。スカートだ。
「女にしか見えねぇな」
アイツが感心したように言う。
正直僕でさえこの姿を見た時女の子にしか見えなかった。
髪はウィッグを被らされ、茶髪のロングヘアーで首に髪が当たってムズ痒い。
膝上のスカートなんかはいたことなくて、凄くスースーして落ち着かない。しかも、ワンピースだ。上下繋がっているし、後のファスナーは自分じゃうまく上げられなかった。
長袖で、袖のところがフワリと広がっていて、気を抜いたらコップの中とかに入れてしまいそう。
靴は、白いパンプス。踵が10cmほどあって歩きずらいし、足も疲れる。
さらに顔を色々塗りたくられた。一々説明されたけど、化粧なんてしないし、しなくたって可愛いし。
ただ爪の手入れをしてくれたのは嬉しかったかな。おかげでツヤツヤである。
「……死ね」
「その顔で物騒なこと言うなよ。腹くくれって。普通にしてたら可愛らしいお嬢さんに見えるから」
そんなニヤニヤした顔で言われても苛立ちしか浮かばないわ!アホ!
「猫被っとけ。これから、撮影なんだから」
「は?嫌なんだけど。無理」
「泪くん!そこをなんとか私からもお願いするわ!!向こうでの準備も手伝いたいの!!」
ぐはっ!
またもや美紗希さんに手を握られた。しかも今度は、美人の涙目付きだ。
断ろうかと思った。…思ったけど。
「………わかりました。ただし!今回だけですからね!!」
言葉に迷っている間に大きな瞳が涙で一杯になって、今にも零れ落ちそうになり…断れなかった。
美紗希さんはぴょんぴょん飛び跳ねて喜び、すぐ準備してくると言い残し裏へ走っていった。
やっと解放された…。
あんな美人と一緒にいると変にドギマギして疲れる。
僕はこっそり息をついた。
「泪」
「うるさい」
反射で答えてぷいっと明後日の方向に首を回した。
そんな僕の行動に
「素が出まくりだけど、撮影大丈夫かよ。泪ちゃん?」
煽るように名前を呼ばれた。
「大丈夫ですぅ!!お前こそ人のこと言えるのか?撮影にだってたくさん女共いるのに!」
これまた反射で噛み付く。勢いで向き直って、アイツをキッと睨みつける。
もちろん「俺を誰だと思ってる?」…なーんて生意気な顔して返ってくると思っていた返答。
次にどう噛み付いてやろうか、そっちに思考が飛んでいた僕は
「余裕。アイツらは俺の顔しか見てないから」
意表を付いたアイツの声色に、戸惑いを隠せなかった。
つまらなそうな、そして少し不貞腐れたような自傷気味な呟き。
何も言わず、ただ見つめていた僕から奴は視線を外した。
その影の差した横顔が遠く感じた。
その綺麗な容姿で色々苦労があったのか。僕には計り知れない。
そんなことないよ、ってフォローしようかと思ったけど、こんなフォローされても嬉しくないだろうし必要ないだろう。
僕は僕の考えを述べる。
「…顔見るのは当たり前だろ。その次に性格だ」
「言うと思った」
「顔しか見てないって思うのは、お前が猫かぶってるからだろ?爽やか王子様気取るの止めればいいじゃん」
奴は少しムッとした。きっと図星を突かれたんだ。
でも間違ったこと言ってないもんねー。
素を出せないのと、出さないのじゃ大きな違いがある。向こうから歩み寄ってきても、こっちのテリトリーに入れる気もないのに、顔だけしか見てない…なんて贅沢な話だ。
ちょっといい気味だ。
言い負かしてニヤッとした僕に、アイツはため息をついた。
だけど、すぐに意地の悪い笑みを復活させて
「人付き合いを円滑に進めるにはこっちの方が楽なんだよ。それに、友達なんか少数でいいし、何より好きなやつには素を見せてるだろ?」
いつもの調子以上に調子に乗ったアイツは、僕の目を見つめながら左手を取って、何を血迷ったのか薬指の付け根にキスを落とした。
暖かくてしっとりした唇の感触。じわっと熱が触れられた箇所から広がっていく。
──こんなキザなこと…恥ずかしい。
「顔紅い…可愛い」
「──!!あっそ!別に興味無いし!ばーか!」
逃げようとした手はそれより早く恋人繋ぎにされてしまった。
「キモっ!離せ!」
「ぷ。ほら、あっち見てみろよ」
振りほどこうと努力する僕を軽くあしらい、空いている手で指を差された。
その方向に視線を飛ばして愕然とした。
「うふふ。素敵な写真ありがと」
語尾にハートマークのついた美紗希さんが、携帯を向けて立っていたのだから。しかも、興奮した様に鼻息が荒かった……。
「さ!行きましょうか!」
大きな鞄を肩から下げた美紗希さんが僕の腕にスルリと腕を絡め先導していく。
撮った写真を消してください……など口が裂けても言えません。はい。
後ろからついてくるアイツが、さり気なく重たそうな美紗希さんの鞄を持ってあげていた。
そういう気遣い…アイツも出来るんだなぁ。
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