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モデルという人種
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美紗希さんは、出番が近くなったら呼びに来ると言い残して何処かに姿を消してしまった。
一人椅子に座り、何処を見るでもなくボケらぁとしていた僕。
そんな状態だったから、肩をトントンと叩かれ異常なほど飛び上がって、危うく椅子から転げ落ちそうになった。どこぞのお笑い芸人のオーバーリアクションになるところだ。危ない危ない。
「何でしょうか??」
肩を叩いた主はここの読モの男だった。確か、柴田。天パの明るい人っていう印象しかない。
そしてその隣にいたのも同じ読モの男で、名前は…忘れたからメガネでいいか。草食系男子といったところかな。
平然を装って首を傾げる。立ち上がるのもめんどくさいから、座ったままだけど。
すると柴田が、多分決め顔である笑みを浮かべた。
「急にごめんね。でもさっきの撮影凄くよかったから。可愛かったよ」
普通の女子ならドキドキしてときめいたかもしれない。でも相手が悪かったな。
『可愛い』なんて言葉言われ慣れてる。それに、さっきの撮影は本当に封印したいぐらいの記憶だから触れないで欲しかった。
撮影が凄くよかったって言うべき相手は僕じゃないくて、あそこでポーズ決めてるアイツだ。
「……ありがとうございます」
ムッとしつつも、適当に会釈してお礼は言ったけど、さっさと離れてくれないかな。
あぁ…でもこういうタイプは無駄に自分に自信があるか空気が読めないかの二択が多い。
コイツらは…
「マジでルミちゃんって可愛いなぁ」
「よかったら、俺達とも撮ってもらおうよ。少しぐらいなら融通が利くからさ」
一番厄介な、両方持ち合わせているパターンだ。
うっわ、ダルい。帰りたい。
「えーと…嬉しいお誘いですけど、私みたいな代理が申し訳ないですよ。あちらにいる彼女達と撮ったらどうでしょうか?」
心にも思ってないことがセリフとしてスラスラ出てくる。
「そんなこと気にしなくていいんだよ!俺達はルミちゃんがいいんだ」
「ルミちゃんは特別だからね」
「………。」
なんとまぁおめでたい頭だろうか。
僕はいつお前らの特別になったんだよ。最初に挨拶交わしただけで特別になれるんなら誰も苦労しないわ。馬鹿じゃねーの。
女の子が特別に弱いと思ってる様だけど、そんな単純な話じゃないから。んな、ウインクされても困るから。好意丸見えとかキモイわー。
多分冷めた目をしているにも関わらず、グイグイ迫って来る馬鹿共。
ここは次の準備があるからってことにして、美紗希さんのところに逃げるのがいいかな。
「あのー私…」
「ほら、おいで」
「ちょっ!?」
人の気持ちなど一切無視で、僕の腕を掴んだ柴田はグッと無理に引っ張った。
急な行動についていける程運動神経の良くない僕は、引かれるがまま椅子から落ちて前のめりに転んでいた。
「痛い…」
大して痛くないけど、ここは大袈裟に痛がって見せる。お前らのせいだからなって、少し睨みながら。
腕を引っ張って女の子を転ばせたら、多少なりとも責任を感じるもののはずが──
「大丈夫?ふふ、ルミちゃんはドジっ子だね」
「そんなとこも可愛らしいけどね」
ドジっ子の一言で片付けられたぁぁ!
椅子から立ち上がるのに転ぶ奴は、ドジっ子を通り過ぎてるから!むしろどうやって転ぶんだよ!?
無理無理無理…話してるだけで馬鹿が移りそう。
ていうか!腕離せよ!
苛付きをぶつけるように、腕を振り払った。
「ん?どうかした?」
あ。我慢出来ん。
僕は前屈みで膝に手を付き、笑っているナルシスト柴田に向かって立ち上がりざまに頭突きをお見舞いしてやった。
ゴンっと結構な鈍い音。
柴田は不意をつかれ、後ろに尻餅をついた。ざまぁ。その無様な顔を見下ろしながら腰に手を当てる。
「ねぇ。理解出来てないの?」
「え?」
「遠回しに言っても通じないのね。じゃあ率直に言わせてもらうわ」
可憐な女の子を演じるのは肩が凝る。それに比べて今の僕はきっとイキイキしているだろう。定番のお嬢様。オーホホホって高笑いしたいぐらいだ。
「あなた達となんて写りたくないって言ってるのよ」
「は?」
「釣り合わないのよ。お分かり?」
僕の豹変ぶりに2人は間抜けな顔をしていたが、言葉の意味を飲み込むと眉間にシワが寄り真っ赤に染まった。
「お前!ふざけんな!」
「別に、ふざけてなんてないけど。大真面目よ」
僕も奴らもキャラ変してるけど、この際気にしない。
立ち上がった柴田とガンを飛ばし合う。
バチバチと火花が散っている僕らの異変に周囲の数人が気が付き始めた。
アイツらはハットして周りの目を気にする。僕は今後ここに来ることはないからお構い無しだけどな。
勝負は付いたと思い、美紗希さんの居るであろう控え室へ向かおうとした僕の腕を、さっきより強い力で掴んできやがった。
「ちょっと来い!」
「っ!」
力任せに腕を引いて、人気のない所まで連れ出そうとしてくる。白くなる程掴まれている腕を振り解けるほど力はない。だけど、隙だらけの男1人や2人どうってことない。
奴らのケツに蹴りを繰り出そうとして──止めた。
今ここで騒ぎを大きくしたら、迷惑がかかるのは誰だ?
先に手を出した僕が悪者になり、そしてそんな僕を連れて来たアイツが非難されるんじゃないのか?
僕だけならいい。けど、アイツは次もココに来て撮影をするんだ。もしかしたら、呼ばれなくなるかもしれない。僕のせいで。
その思考が、僕の行動を鈍らせた。
あぁでも、このまま付いて行くのも悪い予感しかしない。
撮影しているスタジオから連れ出され、人気のない廊下を進んでいる。部屋なんかに連れの込まれたらアウトだよな。
「ちょっと離せよ!」
「黙ってろ!」
「次の撮影の準備があるんだよ!」
嫌な予感は当たるもので。
柴田がある扉を開けて入ろうとしたから流石に抵抗を激しくした。
逃げようとする僕を2人がかりで部屋に押し込んでくる。
ぅぅ…どうしよう。
暴力はダメだけど、男ってバレる方がもっとやばいんじゃないか!?
途方に暮れた僕の方に向かってくる足音に、その時はまだ気がついていなかった。
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