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部屋にいる彼
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*********
重い重い足を引きずるように歩き、部屋の前まで辿り着く。いつもの倍近い時間がかかってしまった。
ドアノブに手をかけ、握りしめた。
けれど、その扉を引くことが出来ない。
部屋にはアイツがいるから…会いたくないな。
誰とも会いたくない。
かといって他に行く宛もない。
開ける…開けない…開ける…開けない…
一人押し問答を繰り返している真っ只中で
──♪♪♪
ポケットの携帯が着信を告げた。
ディスプレイを確認して顔を顰める。
そこには斎之内 遥海の文字。
出ようか、出まいか。
出たくないけど、出ないとめんどくさい。
けど、出たくない。
「………ぅぅ」
一瞬だけ。出て、切れば問題ない。
よし。せーの
「おい。出るか入るかしろよ」
「ひっ!!」
突然の事に携帯を落としそうになり慌てて握りしめた。
だって急にドアが開くなんて誰も予想しないじゃん。
携帯電話を片手に持ったアイツが入れと顎で指示してくる。
渋々、中に入るけど…何故かアイツは奥には行かず、僕のことをじっとガン見してくる。
僕は僕でその視線が嫌で俯いてその場に立ち尽くしていた。
「……ねぇ」
「何」
「早く中行けば?」
「あぁそうだな」
どうしてコイツは動かないんだ。
未だ感じる視線に耐えられなくて、強行突破で自分の部屋に駆け込もう…と1歩足を踏み出した時。
「なぁ」
「ふがっ!?」
奴の両手で頬を包まれ、グイッと無理矢理上を向かされた。
いや、痛いから!
「……おい」
「何見てんだよ」
上を向かされてからも、奴はじーっとガン見してきた。顔に穴が空くんじゃないかと思うぐらいだ。
しばらくその状態が続き、いい加減離れたくて、一人になりたくて、暴れようとした。
けれどそんな僕より
「お前、泣いたか?」
と、アイツが首を傾げる方が早かった。
「な!!な、泣いてなんかねぇし!」
咄嗟に噛み付いたがアイツはそれでも首を傾げたまま僕を見つめる。
泣いては無い。だって泣けなかったから。
でもこれ以上コイツに踏み込まれたくない。
「離せ!離せったら!!」
掴まれている顔を左右に振って手を退けようとしたけど、自分の目が回るだけだった。
次にアイツの腕を掴んで引っ張ったけどびくともしない。
「泣いてなくても、何かあっただろ?」
「は?意味分かんない」
「顔に書いてある」
どうしてこの男は勘が鋭いんだ。別にいつもと変わらない顔をしているつもりなのに、顔に書いてあるなんておかしい!
どうして分かる?どうして構う?
イライラする。すっごくコイツがイヤだ。
僕が分かって欲しかったのは、構って欲しかったのは勇くんだったんだ!
「なんもなかったってば!!」
「嘘つくなよ」
どうして拒絶してるのに入ってこようとする?
逃げようと踠くけど、逃げられなくて、その何でも見透かしているような目が気に入らなくて。
いいから離せ!お前には関係ない!いい加減にしろ!!
土足で人の心を取り乱してくるな!!
僕の心が悲鳴をあげる。
「言えよ」
「何も無い!!」
「……またアレか?勇く─」
「うるさい!!」
一際大きな声で怒鳴りアイツの声をかき消した。
こいつは僕の地雷を易々と踏んでいく。
「言うな!」
「……勇くん」
「だから!喧嘩売ってんのか!?」
キッと鋭くアイツを睨みつけた。それなのに返ってきた視線は妙に柔らかくて気持ちの悪いもの。
やめろやめろ!!来るな!!
普通の人間ならここまで拒否している僕に構おうとしないし、察してそっとしておいてくれる。言うなと言ったことをわざわざ口にしたりしない。無理矢理聞き出そうとなんかしない。
「振られたの?」
「っ………」
傷口に塩を塗りたくるように、軽口でこうもはっきり現実を突きつけてこない。
「ふ…られた訳じゃない!!ただ…」
僕が認めたら、振られたことになる。
違うし!振られた訳じゃない。告白もしてない。勇くんの口から何も聞いてもない。
振られたんじゃない。ただ
「勇くんが柚瑠と付き合い始めただけ!それだけ!たった…それだけ!!」
言葉にして、呑み込む。
たったそれだけの事だったのだと自分に言い聞かせ、暗示にかける。
振られたんじゃない。
僕が…好きになるのをやめたんだ。
こんなに苦しいモノなんかさっさと捨ててしまえばよかったんだ。
ずっとずっと大切にして…ばっかみたい。
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