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変化─遥海side
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──遥海side
俺とお前の関係は一体なんて言うんだろうか。友達以上恋人未満だろうか。いや、それよりも恋人同士(仮)の方がピンとくる。
じわじわと攻めて落とすつもりだったのに、急に5マスぐらい進んでしまった感じだ。
後悔はしてない。何度考えてもあのタイミングで無理矢理落とすしか他に選択肢なんかない。失恋した相手の心の隙を突く…なんて十八番なのに、そして大体の奴はすぐに俺のモノになるのに、泪は微妙な感じだ。
あれから1週間。勇くんと天野が付き合い始めたっていう噂はもう学校中に広がり、有名なカップルになった。そりゃそうだ。2人とも結構な人気だったからな。
そして肝心の泪は多分アイツのことは諦めたんだと思う。しかも、学校生活において態度が冷たくなったとか、話しかけずらくなったとか、そんな声が上がっている。天野とも敦とも話してないようだし、少し心配な部分が大きい。
まぁ諦めたのはいい事だ。問題は俺との関係だ。失恋して、諦めがついて、だけど俺の手を素直に取っていない。それはつまりそういう事なのか。それとも迷っているのか、まだ気持ちが揺らいでいるのか。
正直よく分からない。あの日からぎこちない態度を取られているし、さらに増して避けられているのも自覚している。
押しても引いても動かない距離。
「はぁ…キツい…」
物思いにふけっていて、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけた。
「遥海が落ち込んでる。珍し~」
「だ、大丈夫かな…」
「結局失恋した説あるよな」
「えっ!?可哀想…」
「そんなんじゃねぇよ、アホ」
ガシャンと音を立てながらカップを置いて、目の前で騒いでいる2人を睨みつけた。
1人はビクッと震え、もう1人は詫びる様子もなく携帯を触っていた。
今俺は午前で学校が終わったにも関わらず、ダラダラと自分の部屋ではなく、コイツらの部屋に転がり込んで時間をつぶしていた。もう外は暗くなっている。
この部屋は同じ3年の、大嶺 達也(オオミネ タツヤ)と早瀬 幸太(ハヤセ コウタ)の二人部屋。
こいつらとは1年の頃からの付き合いだ。
達也は見た目と性格が噛み合わない奴だ。人見知りで、自分に自信の無い性格なのに、見てくれはとてもいい...いや、良くなった。一年の頃のこいつを知っていたら誰しもが驚いて目玉を飛ばすと思う。今じゃ、俺と並んでも見劣りしないぐらいだ。
身長は俺より少し低く、線が細い気もするけど顔が良い。髪は1度も染めたことのない黒。結構キリッとした顔付きをしているから、男らしい…と思われる。実際思っている奴も少なくないけど、コイツの性格を知ったらガッカリするかもな。
幸太については、紹介することが全然ない。言うなれば平凡の一言に尽きる。顔も、運動も、勉強も、平凡。普通の普通の普通って感じだ。あ、でも性格はクセがあるな。それに平凡じゃない事もあったな。コイツの恋人が普通じゃない。俺らとつるむようになったのもそれがきっかけだったし。まぁ、それについてはまたの機会に。
って、こんな奴ら今はどーでもいいんだ。そんなどーでもいい奴と一緒にいて時間を無駄に使っているのは、ここに来て心が折れかかっていたから…とか誰にも言えないけど。
泪との部屋に戻るのが……はぁ。
「そんな悩む事か??」
「悩む」
「いつも通り押せばいいじゃん。それで無理なら諦めろよ」
「幸太!そんな簡単に…あの…言うのは、良くないよ…」
適当なアドバイスをした幸太を窘めようとした達也だったが、ゴニョゴニョと言われたら全く意味がないだろう。
「えーあ!分かった分かった。2人っきりなのが気まずいんだろ?」
「…別に」
「じゃ、このまま3人で移動しますか」
「え?どこに??もう夜だよ??」
「そりゃ、達也くん。例の泪がいる部屋にだよ」
「えええ!?む、無理だよ!話したこともないのに……」
「大丈夫大丈夫。別に話さなくていいから。俺らは部屋にいるだけでいいんだって。…やっぱいるだけじゃつまらないから、少し揶揄おうぜ。少し焚き付けるぐらいに。達也は黙って座ってればいいから」
新しい玩具を見つけた子供のようにニコニコ笑う幸太。
達也は話したこともない泪と会うのがイヤで、絶望している。イヤなら付いてこなきゃいいのに、こいつは俺らに引っ付いてくる。そういう奴だ。
邪魔するな、と言いたいところだ。以前だったら確実に部屋に来させなかった。
だけど今は状況が違う。もしかしたらコイツらの影響でいい方向に転ぶかもしれない。
賭けてみるか。
「遥海、行くぞ」
「…あんま変なことすんなよ」
「大丈夫大丈夫~」
不安要素が大きいものの、二人を連れて自室に戻ってみた。
玄関に入ると泪の靴がきちんと並べなれていた。帰ってきているようだ。
「ただいま」
「お邪魔しまーす」
「お、おじゃま…します…」
「って、おい!」
気後れしている俺より先に幸太がズカズカと上がり込み、リビングへ飛び込んでしまう。
慌ててその後を追ってリビングに入ると、そこには泪の姿があった。
しかも無防備にソファーに横たわってスヤスヤと眠っており、その泪を見た幸太がニヤニヤしながら近づこうとしたのを阻止して向かえのソファーに座らせた。
遅れて来た達也は
「か、可愛い…」
と、頬を赤らめ焦ったように目をそらす。見てはいけないものを見てしまった…といった反応。
達也も幸太と隣に座らせ、俺は泪のそばに寄る。
このまま寝かせておいてやりたいが、幸太が変なことをする前に起こしておかないとな。
「泪起きろ。風邪ひくぞ」
「ぅうー...」
ただ声をかけただけじゃ少し唸るだけで目を覚まさない。
最近俺がこんなに近づいたら慌てて逃げるくせに。
以前より確実に奥手になってしまった俺は、そっと泪の肩に手をかけ揺する。キスで唇を塞ぐ、何てこと出来ずに。
「ん...」
何度か揺すって、頬を撮んでようやく泪の大きな瞳が開かれた。まだうとうとしていてあどけない幼子のような表情はたまらなく可愛い。
とろんとした瞳で俺のことを見上げ、パチパチと瞬き。
「遥海...」
「ん?なんだ?」
舌足らずに俺の名を呼び、不意に動かした手を泪の肩に置いていた俺の手に重ねてきた。
その行動の意図が掴めないが、泪から俺の手に触れてきたことは素直に嬉しい。
「遥海先輩...」
「そうだよ」
泪が先輩なんて呼ぶってことはまだ夢だと思っているんだろうか?でも夢の中だからと言って俺のことを名前で、しかも先輩とか口走るとは到底思えない。
じゃあ今目の前にいる泪は...?
俺を見てふにゃっと笑う天使みたいな泪は何?
この出来事が夢か?これ自体俺の夢なのか?
混乱し、迷い、考え、そして俺はこの現実を夢だと仮定することにして、さっき出来なかったキスを泪の唇に落とした。
後ろから、「ひゅーひゅー」とかいう声が聞こえたが無視しよう。
短いキスだったが、確かな感触に心臓が反応する。
顔を離し、至近距離で見つめた泪の頬は淡い桜色に染まっていた。
眠たげなトロンとした瞳とも違う…。
「泪…お前…」
「…寝る」
まるで逃げるかのように泪は再び目を閉じ、ゴロンと逆に寝返りを打った。
あぁ…やばい。
我慢出来ない。
「お前ら、やっぱ今日は帰ってくれ」
「ええーなんでさ」
「何でもだ。明日にしてくれ」
すくっと立ち上がった俺は有無を言わさず、幸太の腕をつかみ無理矢理立ち上がらせて玄関まで引きずった。その後ろを達也は大人しくついてくる。
「急に何すんだよ…」
「いいから。明日」
「んんんん…はぁ。全くワガママなんだから」
「お、お邪魔しました……」
もたつく幸太を追い出し、律儀にお辞儀をした達也に片手を上げて応え、扉を閉めた。
途端に静まり返る部屋。
リビングでは泪の呼吸音だけがあった。少し不自然なその音だけ。
わざとゆっくりと戻り、背もたれに向けてある泪の身体を仰向けに倒した。
ピクッと反応した眉と、僅かに震える睫毛、一瞬止まった呼吸。
「泪。本当は起きてるだろ?」
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