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抱きしめる
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ゴロンゴロンと回転してわたわたしている間に、時間は思った以上に早く過ぎていたようで、部屋の扉が開かれた。
僕は咄嗟にあまり力の入らない手で布団を引き上げその中にすっぽり入ってダンゴムシのように丸まった。
隠れたってバレバレで無意味だけど、どんな顔をすればいいか分からないし、急にやっぱ逃げておけばよかったとか思っちゃうし、てか布団の中遥海の匂いしかしないし...ううぅーー!!
きゅうーと小さくなろうとしていた僕は、ベットが軋み沈んだことで遥海が座ったんだと気が付いた。
近い近い近い!!
目と鼻の先に遥海がいる!
「待っててくれたんだ」
ぽふ、と布団の上に軽い重みを感じた。多分手を乗っけたんだと思う。
それでもひたすら固まる僕を、再度その手がぽふぽふと叩く。
「顔見せて?」
「...やだ無理」
即座に拒否すれば乗せられていた手はすっと去っていく。
布団の中だから、遥海の様子は一切分からない。
「引きこもりになる」
「それは困るな」
遥海の声が少し震えているから、きっと苦笑いしているに違いない。
何笑ってんだよ...。本気で引きこもるぞ!
なんて思いながら次の遥海の言動を待っていたけど、いつまでたっても無言のまま。
どうしたのか、変な雰囲気を感じる。
布団をほんの少しずらして、その隙間から遥海の様子を伺うと、奴は笑みを浮かべていた。
笑っている?笑う要素なんかあった?
笑みの理由を問いただそうと僕が口を開く前に、遥海が一度大きく息を吐きだしてから思ってもないことを予想外に優しい穏やかな声色で
「やめるか?」
そう聞いてきた。
「え...?」
正直びっくりを飛び越して、唖然、呆然として呼吸が止まった。
あの変態がこの直前でやめるかって聞いてきた。今まで散々無理やりだったのに、この局面で。
絶対おかしい。布団を剥ぎ取ってくるぐらいすると思ってたのに。
頭だけ布団から出して、マジマジと見ても、視線が交わっても、変わらない。
不思議な笑み。不釣り合いな笑み。
何かを悟ったような笑み。
急な変化に付いていけない僕はおいてけぼりになっていた。
本当にどうしたっていうんだ?
ポカポカしていた心に冷水をかけられたようだ。
ひんやり冷たい。
冷たさは不安を呼んで、高鳴っていた胸は静かに痛みを訴える。
「遥海…?」
言いようがない不安に駆られ、名前を呼ぶ。
遥海の右手が伸びてきて、人差し指の裏で頬を撫でられた。
「そろそろ1ヶ月経つよな」
「…?」
「部屋。変えられるな」
「う、うん…」
「………。」
遥海は前に向き直り、俯いてしまう。
部屋…変えるの?変えたいの?勝手に変えたくせに?
今更…馬鹿じゃないの。
こんなにも、掻き乱しておきながら僕のことを遠ざけるようとするのは卑怯だ。
「悪かったな…色々」
諦めの色が強い…まるで最後の言葉みたいだ。
色々悪いと思っているなら…責任取れよ!
全部返してよ。逃げるなら最初からするなよ!
心の中でつく悪態は何故かグサグサと僕の胸に突き刺さる。言った言葉が全部僕に跳ね返ってくる。
痛い…痛い痛いっ…。割れそうなぐらい痛い。
痛いのは嫌い、こんな痛みはもうたくさんだと…前に思ったことがある…僕はこの痛みを味わったことがある…。
──そう…勇くんを好きだった時
「ねぇ…」
諦めるの…?
僕のこと諦めて、どうするの?どこにいくの?
ボヤける視界の中にある背中が寂しい。逸らされてしまった顔が切ない。
もう二度とその目に僕が映ることがないと考えただけで、胃がキリキリする。
やだっ…遥海まで置いていかないで。
「遥海っ!」
僕は上半身を起こして布団をパサリと脱ぎ捨てた。熱のこもった布団から出るとそこは別の世界のように寒い。
だから、寒いのも痛いのも全部をぶつけるようにぎゅうっと強く、背を向けて座っている遥海の背中に、思い切り抱き着いた。お腹に腕を回して背中に顔をくっつけて、ぴったり身体を合わせる。
「ん。」
「………。」
必死にしがみついて、遥海のシャツがクシャクシャにシワができるぐらい力を込めて握りしめた。
触れている全てで感じてほしい。
僕のことを。僕の気持ちを。
言葉で伝えられないから...これが僕の限界だ。
伝われ…
置いていかないでって。
やめないでって。
他の奴らよりは好きだよって。
全部全部、伝われ。
「泪...顔見ていい?」
お腹に回した手に遥海の手が重なり、僕の手を包み込む。
少しだけ手の力を緩め顔を背中から離すと、遥海が半身で振り返る。
一瞬息を飲んだ遥海は、次の瞬間蕩けるように瞳を細め
「お前…やっぱすごく可愛い」
僕のことを押し倒した。
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