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案の定、煌のパジャマは僕には大きすぎ、ぶかぶかで裾は床を引きずっていた。
可愛いよ、などと煌は喜んでいたが…。
ぼす、と煌のベッドに座ると、煌が僕の頭をタオルで拭き始めた。
まるで僕が王子様かのように甲斐甲斐しく世話をするから
「自分でやれるよ…」
と言ったけど、
「やらせてよ」
と笑顔で言われて僕は口をつぐんだ。
…何だここ…
白く霞んで良く見えない。
何度も辺りを見回してみるけれど、心当たりはない。
微かに声がして、そっちを向くと母さんが泣いていた。
随分と母さんの背が高い…
…違う、僕が縮んでるんだ。
母さん、と呼びかけたいのに声が出ない。
そっと近づき、母さんの腕に触れるとばしっと手を叩き落とされた。
「その穢れた手で私に触らないで!」
…え…
穢れた、手…?
「あぁ…気持ちが悪い…っ顔もみたくないわ!あなた!早くこの汚らしいゴミクズを捨ててきて頂戴!」
母さんの視線の先には父さんもいた。
父さん、母さん、と呼びかけたいのに言葉は喉に張り付いて出てこない。
触れたいのに、とても遠くにいるかのように手を伸ばしても触れられなかった。
「そうはいっても…こんな出来損ないのクズどこも引き取ってくれないんだよ!」
父さんの手には孤児院の一覧と地図。
母さんは、近くにあった人形を僕に投げつけた。
木でできた人形の腕が僕の方に当たり、鈍い痛みが残る。
「出て行って頂戴!同じ空気も吸いたくないわ!」
「そうだぞ!お前さえ居なければ俺たちは…!」
その続きが聞こえない。
まるで耳に綿でも詰められたようにぼやぼやと聞こえる。
何…?
父さん、母さん、なにいってるの…?
なんとか聞こうと耳を澄ました時、突然劈くように聞こえた一言、
母さんの声だった…
「あんたなんか死んじゃえばいいのよ!」
「…っ!?」
目を開くと、二段ベッドの上の段が見えた。
夢…か…
最近は見なかったのに…
随分と昔の夢を見て…やっと忘れてたのに鮮明に思い出してしまった…
むく、と起き上がるともう眠気も吹っ飛んでしまっていたのでベッドから降りようとしたが、たくましい腕にベッドに引き戻された。
「零…どこ行くんだよ…」
「ごめん…起こしちゃったかな」
「なんの夢見てたんだよ…すげぇ魘されてたぞ…?」
「……何でもない」
一瞬言おうかと思ったが、思い直した。
最近僕は煌に甘えすぎている…。
依存は良くない、そのせいで迷惑をかけるわけにはいかないのだから。
「なんでも無くないだろ、言ってみろよ、零」
「…」
「両親のことだろ…?」
「…え、どうして…」
「ずっと寝言で言ってたからさ…」
「寝言…?僕、なんて…」
「お母さん、お父さん、どうして、なんでって何回も言ってた。置いてかないで、とも言ってたな…。お前、両親と何があったの?」
「…何にも無いよ」
もう忘れたと思ってたのに…
心の底では両親を求めて居た事実を突きつけられ、僕はどうしていいか分からず煌を見つめた。
「零」
ぐっと引っ張られ、僕はまたベッドに寝かされた。
あったかい胸板に顔を押し付けられ、頭を撫でられる。
体には柔らかい布団が煌より多く掛けられた。
「無理には聞かないから…ゆっくり寝ろ」
そう言って頬杖を付く煌はお兄ちゃんみたいで、なんだかとても嬉しくなったから僕はゆっくりと口を開いた。
「…僕が小学校に上がったばっかりの時…」
言い出してからちらりと煌の顔をみると、煌は優しい目で僕を見つめ返した。
「…目の上に…妖っていう字がでて…」
いいながら自分の前髪をかきあげてみる。
そこには「色」の字。
「悪魔の印だって…母さんも父さんも気持ち悪がって…穢れた子だって僕の事を孤児院に捨てたんだ…」
煌は何も口を挟まない。
ただ黙って、僕の話を聞いてくれている。
「何度か孤児院を抜け出して家に帰ったんだ…でも…僕が居なくなったあと引き取ったっていう弟が居たから顔を見せる勇気はなくて…」
楽しそうに笑いあう母さんたちとひとりぼっちで孤児院に縛り付けられた僕はひどく対照的だった。
「ついこの間なんだ…。ここに転校してくる3日前にここの理事長に拾われたの…。悪魔の印なら是非引き取りたいって…。…僕が欲しいんじゃなくて僕の力が欲しいんだよ…皆…」
「零」
ぎゅ、と抱きしめられた。
「俺は零が何者でも零が好きだよ?零が必要なんだ、一人の人として」
「煌…」
抱きしめ返そうとして、途中で手が止まった。
『その穢れた手で私に触らないで?』
…母さんの言葉が頭をよぎる。
触ったら…ダメだろうか…
伸ばした手をぎゅっと握って戻そうとしたら煌に手を握られた。
「抱きついてくれるんじゃないのか?」
「…母さんが…穢れた手で触るなって言ってたの…思い出したから…」
「綺麗な零の手だよ」
ちゅっと唇を手に落とされた。
ぎゅうと抱きしめると、もっと強い力で抱きしめ返された。
ああ…抱きしめていいんだ…
煌の身体の下になってしまった右手が痺れるが、離れたくなくてそのまま抱きしめていると、煌がそれに気づいて僕の腕を自分の身体の下から無理矢理抜いた。
すると、持ち上げられて仰向けになった煌の上に寝かされた。
「これなら好きなだけくっつけるだろ?」
「でも…重くない…?」
「こんな細っこい身体して何言ってるんだよ、もっと食え」
ぱさ、と布団が掛け直される。
煌の胸に頭を押し付けると心臓の音が聞こえた。
妙に安心できるその音に耳を傾けながら、僕はそっと目を閉じた。
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