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side鶴丸国永
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焦れて名前を呼んだものの、次の会話など用意しているわけもなかった。
そして、視線の先の一期は涼しげな表情で振り返った。
それだけで胸の奥が痛み、冷ややかな恐怖が背筋を這い上がってきた。
自分の目を疑った。
俺と会話する時の一期が、こんな涼しい表情をしたことなど一度もない。
他の奴らに話す時だってそうだ。
こんな温度を感じさせない表情をするやつじゃない。
「どうか致しましたか?」
俺が混乱している間に、愛想や優しさの欠片も感じない、他人行儀な声色が耳に届いた。
「あ、いや・・・刀装ちゃんといいの付けていけよ」
精一杯繋げた言葉に、一期はやはり冷静に「ご心配なく」とだけ言って、去っていった。
いつもの一期ではない。
そもそも俺の知る「いつもの一期」が「一期の全て」ではない。
そんなことは深く考える必要もない程当たり前のことだ。
自分だって、晒している部分だけが全てではない。
それほど、この身に宿った心というものは複雑で厄介なものだ。
しかし、いつからあんな風だったのかすらわからない。
昨日の時点では普通だと思っていたが、気付かなかっただけなのだろうか。
いや、こんな異常なほどの違和感、すぐに気付くはず。
つまり、昨日の内に何かがあったと考えるのが定石だろう。
何があった?
俺は何か怒らせるようなことをしただろうか?
そもそも会話すらまともに出来ていないのに?
何があったか。なんて、いくら考えた所で想像の域を出ない。
唯一脳裏に浮かんだのは「もう一期は別の誰かを見つけてしまったのではないか」だった。
それなら簡単に説明がつく。
別に誰かが心の中にいるのなら、俺との会話すら一期には不要なのだ。
煩わしいとすら思うかもしれない。
でも、それでも嫌だという感情を制御しきれなかった。
日に日に一期に嵌っているという自覚はあった。
彼への感情が、身勝手極まりない独占欲であることも、薄々気付いていた。
そして今、その対象がするりと手から抜け落ちた感覚。
もう俺を必要としない、というような他人行儀な態度。
これが、絶望感とでも言うのだろうか。
何もかも投げ出したくなるような、酷く空虚な気持ちになった。
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