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side一期一振
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傷を負い、それが思ったより深いことは分かっていた。
それでも弟達を優先し、自分が手入れされるのは後回しにした。
弟を思ってのことではない。
消えてもいい、と思っていた。
これで、消えてしまうのも悪くないと。
部屋の中で息を潜めていると、鶴丸殿が現れた。
幻だと思った。
最期に幻影を見てるのだと。
しかし、リアルな感触と鶴丸殿の心配して下さる声の響きは、それが本物だと確信させてくれた。
あぁ。鶴丸殿だ。
意識が朦朧とする。
その中で、鶴丸殿が私に声をかけてくれた。
たったそれだけのことが、どうしようもなく嬉しかった。
消えたくない。
やっぱり、私は鶴丸殿のいる世界に居たい。
傍に居られなくても、もう私を見てくれなくても。
やっぱり、鶴丸殿がいい。
手入れ部屋に向かう際に、狭くなってきていた視界で、うっすらと見えた彼の目は昨日とは違った。
目に光を宿して、強い意志を感じられる。
今まで通りの鶴丸殿だ・・・。
少し焦ったように見える表情は、おそらく自分の為なのだ。
それだけで、昨日から緩みっぱなしの涙腺が緩んだ。
鶴丸殿はそれを勘違いし「痛むのか?」と必死に尋ねてくれた。
そんなに心配される価値は、もう私には無いはずなのに。
心底嬉しかった。
もう上手く話す事も出来ず、数度首を振って応えるしか出来ない。
その動作だけでも、傷口に響き思わず顔を顰めると「じっとしてろ」と頭を撫でられる。
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