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sideハル: この日のために
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(嗚呼、やっとこの時が来た。)
この時を、ずっとずっと待ち望んでいた
小鳥遊の屋敷から外に出られる……この〝瞬間〟を
幼い頃から、いつも一緒だった
いつも一緒に遊んで、楽しんで、笑い合ってーーー
それなのに、怒られるのはいつもアキだけだった
『おかあさんっ、やめてよ!』
その言葉は、声ではなく咳となって口から出てしまって
『あぁハル、きっと今日は遊びすぎたのね。ゆっくり休んで。』
(ちがう…ちがうんだおかあさん、)
今日はね、凄く楽しかったんだよ。
アキと一緒にお庭へ行って、沢山の綺麗なお花を見たの。
太陽がとても眩しくて、風はちょっぴり…冷たくて……
だからね? ほんの少し、体がびっくりしちゃってるだけなんだ。
だから、アキは何も悪くないから、だからーーー
僕の部屋からアキを連れて出て行こうとする母さんに必死に手を伸ばすけど、熱がある所為か…体は全くいうことを聞いてくれなくて
(やだ、アキ、アキっ、)
扉を閉められる瞬間、僕の心の中の声に気づいたかのように振り返ったアキは
目に涙を浮かべながらも必死に「大丈夫だよ」と、笑っていて
バタンッ
「〜〜〜〜〜っ!!」
「嗚呼、僕は何て無力なんだろう。」と、子どもながらに理解した
ーーー僕は〝弱い〟。
そんなの、もう充分過ぎるくらい知ってる。
誰かの助けがないと、生きていけなくて
どんなに内側を鍛えても、大切なものひとつ満足には守れない
だから、ずっとずっと…待っていた
僕の代わりに、ここからアキを救い出してくれるような
僕の大切なものを、大事に守ってくれるような
ーーーーーそんな存在を。
『ハルになりきって、学校へ通う事になったんだ。』
アキからそう言われた時、これから来るかもしれない辛い結末と一緒に、
きっと何か…この状況を変える大きな転機が転がり込んで来るはずだと思った
それは、僕らの関係性を大きく変えることになるかもしれないけれど
でも、それでもアキの事を救ってくれる〝何か〟に出会うことができるのならと思って、背中を押した
そして、それはことの外良いように進んでくれた
初めての〝友だち〟に〝先輩〟に〝先生〟に
ーーーそして〝婚約者〟に
2週間毎に帰ってくるアキは、とても輝いていた
ワクワクしながら話をして、時には怒ったように悪口を吐いて、でも次会った時にはケロリとしていて……
(初めは学校で起こったいろんなことを話してくれてたのに、 いつの間にか…それが婚約者の話ばっかりになっていた事に、アキは気づいてたかな?)
〝会長〟から〝レイヤ〟へと、呼び方が変わって
笑いながら楽しそうに話をするアキは、本当に優しそうな顔をしていて
それが悲しく切ない表情へと変わった時、「あぁ、気づいたんだな」と思った
(帰ってくるごとに変わっていくんだもん。誰だって気づくよ。)
だんだん だんだん 自分でも気づかないうち惹かれていってるアキを見て、僕はやっと、ひと筋の光が見えたような気がした
(でも、まだ認めないけど。)
名前しか知らない、話でしか聞いたことのない 〝龍ヶ崎 レイヤ〟
そんな奴に僕の大事な片割れを任せるなんて、絶対できない
(それに、こんなんじゃなくてもっと〝ちゃんとした形〟で、アキには幸せになってもらいたい。)
僕として愛されるのではなく、ちゃんと〝アキ〟として愛されて欲しい
全てのしがらみから解放されて、アキをアキだと捉えてもらって
そして、たくさん たくさん……心から
ーーー〝アキ〟を、愛して欲しい。
(ねぇ、アキ。)
いつも一緒にいたアキが学校へ通っていた、この約半年間
1人でいた僕は、一体〝何〟をしていたと思う?
レイヤがスマホで話をしているのを眺めながら、
カサリとポケットの中にある紙を触る
(よくここまで、環境を整えれたね。)
〝ハル〟として、よくここまで動けれたと思う
(やっぱりアキはすごいや。)
イロハもカズマも佐古君も、月森先輩もタイラも、梅谷先生も櫻さんも、みんなみんないい人だった
(みんな、ちゃんとアキに気づいてくれてるよ。)
アキは完璧に演技をこなしたはずなのに、少しの違和感を感じていたということ
ーーーそれは、みんなが外見だけでなく内面までをも見ることができる人間であるということだ
(龍ヶ崎 レイヤも、合格かな。)
てっきり、無理やりキスマークの確認をされるのかと思ったけれど
(まさか断られるなんて、思わなかったなぁ。)
一瞬で気づかれた
それも、〝心を見た〟と言う。
(レイヤをここまで変えたのは、アキでしょう?)
認めたくないけど、彼は素敵な人だね。
アキのことをどれだけ大事に思ってくれてるのが、威嚇によって伝わってきた
きっと、この半年間で数え切れないくらいたくさんのことが、あったんだよね?
僕に報告してくれたことも、言えずに黙ってしまっていたことも
それを全部全部ひっくるめて、ーーー僕は君を守りたい。
カサリと、紙を握る
(ねぇ、アキ。)
僕の〝幸せ〟はね? アキがいないと始まらないんだ。
ーーーだから、
申し訳ないけど、僕は
君がこれまで僕の為に積み上げてくれた環境を、
この世界を、
ーーーーー 壊すよ。
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