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バタンと会場の扉を開くと、小鳥遊夫妻はまだ人に囲まれていた
(ふむ、まだ忙しかったか…人気だなぁ。)
『トウコ、大丈夫かい?』
『えぇ。ドレス、汚れてるかしら?』
『軽く叩いたら土が落ちたからね、心配ないよ。』
『良かった……』
ホッと息を吐く彼女は、笑顔で隠しているもののその本心は『あの子の事が心配でたまらない』といった様子だった
(庭の中へ、再び消えていってしまったな…)
どうか、泣いていないといいのだが……
会場から庭が見える大きな窓の方へと目を向けて
『…トウコ、あちらへ行ってみようか。』
『え? ぁ……、』
その窓を静かに見つめる、小さな背中を見つけた
『こんばんは、ハルくん。』
『こんばんは。』
『っ、ぁ、こんばんわ……、』
驚かせないよう優しく話しかけたのだが、案の定驚かせてしまって苦笑する
『びっくりさせてごめんね。おじさんたちも一緒に外を見ていいかい?』
『…うん、どうぞ。』
『ありがとう。』
改めてこの子を見ると、先程庭で会った子に本当によく似ていて
(やはり、双子で間違いないか。)
チラリとトウコと目線を合わせ、他の人には聞こえないよう声のボリュームを落としながら話しかけた
『ねぇ、ハルくん。昨日はお熱があったみたいだね。』
『……ぇ、?』
『こんなに窓の近くにいたら、また体が冷えてしまうんじゃないかしら。何か温かいものを貰ってきましょうか?』
『ぁ、ぁの…どうしてしってるの?』
『クスクスッ。うーん、そうだなぁ……
ーーー〝子猫〟に、教えてもらったんだ。』
〝子猫〟
名前を聞く時間すらなかったから、あの子の名前はわからない
だが、あの子の雰囲気は…なんだか小さな子猫のように可愛かった
『私たち、さっきまであの庭にいたの。あまりにも花が綺麗で少しだけ見せて貰ったわ。そうしたらね、可愛らしい子猫に会ったのよ。』
『その子が言っていた。〝ハルは昨日熱があったから、今も無理してないか心配〟だと。』
『〝きつかったらベッドに行ってね〟って言ってたわ。』
先程託された伝言を優しく伝える、と
『〜〜〜っ、そ、なんだぁ……』
クシャリと顔を歪めながら、幼い顔が俯いた
ポツリ
『ね、そのこはないてなかった?』
『そうだね…ひとりで遊んでいたよ。泣いてはいなかったかな。』
『そ、かぁ……よかった…』
顔をあげたハルくんは、泣きそうになりながらそれでも笑っていて
『こねこ、かぜひいてないかなぁ……、』
『子猫の事が心配だ』と言うように、再び窓の外へ視線を向けた
(………素晴らしいな。)
この子は、まだ齢3歳程だ
それなのに比喩の表現を知っており、尚且つそれに合わせて話をする事ができている
(子猫が何の例えなのか、瞬時に理解したのか…)
そしてその子の名前を子猫に置き換えて、他に怪しまれないよう私たちと話をしてくれている
(頭がいい、な。)
この子はとても利口だ
恐らく先程庭にいた子も、同じくらい頭が良いのだろう
『いっつもね、ぼくのしんぱいばっかりしてくれるの。』
ポツリポツリと、小さな声が話す
『でもね、ぼくはそのこのほうがずぅっとずっとしんぱいで…たいせつで…… いまも、こんなにまっくらなのに、けがしてないかなって…』
きゅぅっと口を歪ませながら窓に両手を付けて眺めるその姿に、先程あの子と話した時みたいに酷く胸が締め付けられた
『その子の所へ、行きたいのかい?』
『ぅん、いきたい……っ、』
『子猫の事が大好きなのね。ハルくんは。』
『っ、ぅん、だいすきなの、』
大好きで、大切で、大事で、心配で
もうどうしようもないのだと言うふうに、目に涙を浮かべながら苦しそうな声を漏らした
(嗚呼、この子たちは、)
庭にいた子も、自分より兄弟の方が心配だと屋敷の方を見て
ハルくんもまた、こんな暗い中ひとりでいる兄弟が心配だと庭の方を見て
(本当に、よく似ている。)
切ないほどに綺麗な…兄弟愛だった
『……ねぇ。』
『? なぁに?』
『どうして、君たちはーーー』
『ハル。』
聞こうとした、その言葉は
しかし再び第三者の声によって遮られた
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