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その1: 熱の話 1
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【リクエスト: アキが熱を出してしまう話。】
※前回も書きましたが、今回は本編完結後の時間軸です。
side: アキ
(頭…痛いかも……)
それは、土曜日の昼間のこと
今日はハルは2週間に一度の検診の為、家の会議に出席するレイヤと一緒に龍ヶ崎家へ行ってて居なくて、だから1人でのんびりしてた
(朝はなんともなかったのになぁ……)
いやちょっとだけぼうっとするなとは思ってたけど、でも寝起きだしなって気にしてなくて
そのまま「じゃぁ行ってくるねっ!」というハルを玄関先で見送ってーーー
「っ、くしゅ、」
くしゃみが出て一気に寒気が駆け上ってくる感覚がする
(やばいな…どうしよ、)
多分風邪……なんだと思う
なんで引いたんだろう? 俺何かした……
(とりあえずベッドいこ、)
ソファーから立ち上がるとクラリとフラついてしまって、でも飲んでたカップを何とかキッチンまで持って行った
「はぁ…っ、やば……」
シンクに手をついて呼吸するけど、浅くしか吸えてないのがよく分かる
おでこに手を当てるとさっきより熱くなっていて
(こんなの、いつぶりだっけ……)
あぁそう、確か俺がハルだった頃だ
あの時は教室で倒れてしまって、そのまま佐古が保健室運んでくれたんだっけ…
(レイヤと先輩に心配されちゃったよなぁ……)
『我慢すんな。なるべくでいいからちゃんと伝えろ。』
『痛みに、慣れてはいけませんよ。』
「ーーーっ、」
今もし、この状態のまま明日ハルが帰ってくるまで1人で我慢してたら…どうなるんだろうか?
(ってかハルが帰ってくるまでに治さなきゃ駄目じゃん。)
俺の風邪がハルに移ったら、それこそ大変だ
どうしよう…どうしよう……
グルグル悩んでたら頭痛と一緒に吐き気がしてきて、思わずクタリとキッチンにしゃがみ込んだ
(はぁ…き、つい……っ、)
どうすればいいの? ハル、レイヤ、先輩ーーー
「先…輩……?」
そうだ、ハルとレイヤは今いないけど先輩は居る筈
それに…多分この事言わなかったら、先輩また悲しむと思う
(「ちゃんと頼ってください」って、「私は貴方の月森なんですよ」って、言ってた。)
ーーー先輩のあんな顔……もう見たくないなぁ。
「月森…先輩……っ、」
先輩のとこ、行こう。
ベッドなんかじゃなくて、先輩のところ。
ここから2つ上の階の歩いてすぐ近くだし、エレベーター使えばもっと早く着くはず
体が熱くて力が入ってるのかわからないけど、それでも踏ん張って何とか立ち上がる
(先輩の部屋…せんぱいの、部屋……)
さっきとは比べ物にならないくらい頭がぼうっとして、視界がグラグラ揺れる
それでも、壁に手を当てながら一歩一歩ドアへと向かった
「はぁ…は、はぁ……っ、」
なんとか歩いてエレベーターに乗って、3階に着いてまた歩いて
壁に手を当てながら、座り込んでしまいたいのを堪えて進んでいく
(俺、ちゃんと歩けてる…?)
地面の感覚がない、ふわふわしてる感じ
先輩の部屋は…たしか、この辺…だったはず……
「ぁ…ここ……、」
エレベーターを降りて少し歩いた、このドア
脳で考えるより先に、体全体でもたれかかるようにノックした
(せんぱい…せんぱぃ、)
ガチャッ
「……はい。」
(あ、れ…………?)
警戒しているようにゆっくり開けられたドアの中には、知らない人
嘘、もしかして…俺部屋間違った……?
「っ、ぁ……すいま、せ…」
「待って。」
もたれかかったドアから体を起こそうとして、待ったをかけられる
「小鳥遊君だな。月森呼ぶから。」
「は……っ、」
肩を支えてくれて、その人は部屋の方に向かって「月森ー!」と声をかけた
(ぁ…もしかして、せんぱいと同室の……人?)
揺れる視界の中、奥の部屋がガチャリと開いて顔を覗かせた先輩が驚いた顔をしてこちらに早足で向かってくるのがわかった
「アキ様!? 一体何が…」
「せん、ぱ………」
「っ、熱がありますね。」
ガバリとドアから体を離されて、先輩の腕の中に入る
相当高いのか、おでこを触った瞬間目の前の顔が歪んだ
「ここまでおひとりで歩いてこられたのですか? ハル様や龍ヶ崎が居なくても櫻さんや丸雛くんたちの部屋の方が近かったでしょうに。」
(あれ、確かにそうだ。)
でもーーー
「せんぱいが…たよってくださぃって……」
「ーーーっ、クスッ、確かにそうですね。
覚えてくださって有難うごさまいます、アキ様。」
もう…体は限界で
先輩のところにたどり着けた安心感でガクリと力が抜けた
それを受け止めてくれて、ふわりと横抱きにされる感覚がする
「私のベッドへ運びます。」
「ドア開けるから。」
「有難う。」
氷枕ありましたっけ、あと諸々の物。
確か枕は冷凍庫に入れたままだった筈、他は無かったら俺が買ってくるよ。
すいません。
こういう時の同室者だろ。別にいい。
運んでくれる振動を感じながら、
先輩たちの会話を耳に、意識が遠のいていったーーー
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