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美しい獣 1
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バイト帰りの夜だった。
都会の夜空を見ながら俺、皆川 颯人(みながわ はやと)はあいつのことを想い、ため息をついた。
あいつの幸せを壊すまいと、ついに俺はあいつに告白出来なかった。
いや、それは都合のいい言い訳で、実際はただ告白するのが恐かっただけなのかもしれない。
けれどあいつが恋人と別れた時、俺を頼って家に来たあの時、今なら俺の気持ちを受け入れてくれるかもしれないと少しでも考えた。
そして自分に失望した。俺は何て卑怯な男なのだ、と。
結果的に想いを打ち明けないで済んだが、自分を責めずにはいられなかった。
もっと前の段階で告白しておけばよかったものを、最悪な結末を恐れて行動しなかった結果が、恋人ではなく『永遠の友達』という、まさに今の状況であった。
一人相撲もいいところだ。
こういう恋愛事に臆病な自分が俺はとても嫌いだった。
後悔したところでなにも変わらず、するだけ時間の無駄であることは理解していた。
この失恋は早く忘れるべきであるということも。
次の恋はきっと自分の想いを伝えてみせる。
それくらいしか得られる教訓はなかった。
エレベーターに乗り、憂うつな面持ちで自宅に着いた俺は、ドアの前でぐったりとしている男に気がついて足を止めた。
知らない男だった。
いや、厳密に言えば顔見知り程度ではあるが。
無精髭を生やしブカブカの派手なTシャツにジーパン、前髪は伸びすぎて目元が見えない。
この人は隣に住んでいる因さんだ。下の名前は覚えていないが、妙に名字の響きが印象に残っていたのですぐに思い出せた。
それにしてもなぜ俺の部屋のドアの前で倒れているのだろう。
退いてくれないだろうか。
ピクリとも動かない因さんにだんだん不安を覚え、軽く肩を揺すってみた。
すると、まるで起こすなと言わんばかりにうなり声をあげ、気だるげに「何?」と呟いた。
よかった。どうやら生きているらしい。
「こんなところで寝てると風邪ひきますよ。きちんとベッドで寝てください」
できるだけ優しい口調で伝えると、因さんはまた何かボソボソと呟いた。
「え、なんですか?」
顔を近づけると、因さんからむせかえるような酒の臭いが漂った。
どうやら泥酔しているようだ。
「・・・・・連れてって」
誰かと勘違いしているのか、駄々をこねる子どものように唇を尖らせた。
いい大人が台無しだと呆れてしまったが、完全なる赤の他人というわけでもないし、隣人愛がくすぐられてしまったので、俺はこの酔っ払いに協力することにした。
「分かりました。で、部屋の鍵は?」
「んぅ・・・・・・?」
聞き取れなかったのか因さんは自分の耳を俺の口にくっつくかと思えるほど近づけてきた。
思わず身を引いてしまったが、もう一度ゆっくり尋ねた。
「あなたの部屋の鍵はどこにあるんですか?」
「あぁ・・・・。店に置いてきちゃった、へへ」
うっかりうっかり、と右手で拳をつくり、自分の頭を軽く叩きながらへらへらと笑った。
なるほど。部屋の鍵がなくてそのまま寝込んでしまったのか。
さて。このまま放置しておくこともできるが・・・・・。
全く面倒くさい。面倒くさいが。
一晩だけ泊めてやろうと思い、俺は因さんを担いで自分の部屋に運ぶことにした。
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