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ウサギとカメ10
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「ど、どうしたラビ・・・」
「君は・・・っ、どうしてそこまでするんだ!
どんなに頑張ったって、こんな勝ち目のない勝負で、勝てるはずがないだろう!?」
ラビはなにかに苛立っているようだった。
亀太郎はなぜラビがこんなにも余裕のない表情を見せるのか分からなかった。
「だっ、だって、お前が出した条件・・・・・」
「それにしたって、壊れた看板を見たら普通帰るだろう!」
「で、でも・・・そんなことできない」
「なぜ!?」
ラビは憤慨した様子で亀太郎にくってかかった。
亀太郎は初めてみるラビに心臓をバクバクいわせながら眉を寄せた。
「・・・っ、妹の幸せのためだ」
「妹・・・・・・?
ますます理解できない!
人のために、君は頑張るというのかい?」
「そう、だけど・・・?」
亀太郎の答えにラビは瞠目し、勢いよく亀太郎を突き放した。
よろける亀太郎に背を向け、ラビは額に手を当てて頭を振った。
「そんなはずない。努力したって無駄なんだ。
それなのに・・・・・・」
亀太郎はラビの動揺する姿をきょとんとした目で見ていたが、やがてラビの陥っているものを理解した。
ラビは、全力でなにかに取り組んだことがないのだ。
あるいは、どこかに努力するということを忘れてきてしまっている。
だからラビにとって、全力で頑張る亀太郎は異質なものであり、理解できないものであり、そしてとても恐いものなのだ。
亀太郎はラビの目の前に立つと、ラビの肩に手を置いた。
「な、なんだい・・・?」
「ラビ、よく聞け。これはおそらくオレだから言えることだ。
確かに、ラビやオレのように権力がある奴らは努力なんかしなくたって、そこそこ楽に生きていくこともできる。
でも、権力があるからこそ、そんな生き方しちゃダメなんだよ」
亀太郎が真剣に話す姿を、ラビは鼻で笑った。
「君みたいな人間が、僕に説教でもする気かい?」
「ああ、そうだ。これは説教だ!」
息もかかるほどに亀太郎は顔を近づけた。
ラビは亀太郎を睨み付けると、すぐにそっぽを向いた。
「・・・・・・お前は、かわいそうなやつだよ、ラビ」
しゅん、とする亀太郎にすら、ラビは目を合わせようとしなかった。
いや、合わせられなかった。
「僕がかわいそう?冗談は・・・・・」
「だってお前は頑張らなかったんだろ?
そんなの、つまらないし、自分に自信が持てなくなる。
それに・・・・・」
少し言い淀む亀太郎に、やっとラビは目を合わせることができた。
「なに?」
「努力する人間には、自然と応援してくれる人間がついてくるんだぞ。
オレたちには、そんな仲間が何より必要なんじゃないのか?」
その言葉に、ラビはなにも言い返せなかった。
今まで、ラビの周りには本気で応援してくれる者など存在しなかったのだ。
それは、亀太郎の理論からいえば、ラビ自身が全力を出さないことが原因に他ならない。
「・・・・・・君には関係ない」
「なっ!?」
「努力すれば報われるだなんて、能力が劣った人間の言うことなんだよ」
ラビはそう言うと、亀太郎から逃げるように歩き出した。
「あ、おい!どこいくんだよ!」
「祠に行くんだろう?案内するから早くおいで」
ラビは自分を見透かされたことを恥じながら、滲む涙を親指で拭い、早歩きで道なき道を進むのだった。
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