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魔法が解ける前に 5
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「なんで・・・・・・」
震える唇からようやく紡げた言葉はその程度で、もはや自分のなかで意味を持たなかった。
その時。
妙に生々しく聞こえた足音で、オレはすぐに後ろを振り返った。
コーヒーの香りが唯一オレの理性をひき止めていた。
「どうしたんだよ薫?」
「昴くん・・・これは・・・・・・」
「あぁ、それね。
俺も教えて欲しいんだけど・・・・・」
昴くんはコーヒーを机に置くと、オレの肩を優しく、だが逃げられない力で掴んだ。
(ダメだ・・・・・・体が動かない)
そのままそっとソファに押し倒され、嫌な予感にオレは昴くんの顔を見ると、口角は上がっていても、明らかにその目は据わっているのが分かった。
「薫はいつから浮気してたの?」
「・・・・・え、なん―――――――」
なんのことだ、と尋ねようとした口は、昴くんが背もたれを勢いよく殴るから、そのせいで震えてしまった。
「・・・・・・いつからだよ」
怒気を含んだ声が頭上から降ってくるこの状況に、オレは全くついていけなかった。
「ォ・・私、浮気なんてしてない」
「は?なに言ってんの?
じゃあなんでお前の家にこんな男の下着があるんだよ」
一瞬自分の耳を疑った。
「・・・・・・家に入ったの?」
おそるおそる尋ねると、昴くんは眉を寄せ、目を逸らした。
が、すぐに視線を戻し、オレを睨んだ。
「彼氏なんだから、家に行くのは当然だろ?
お前がずっと家に行くのを拒むから、仕方なかったんだ」
「そんなの、犯罪・・・・・・」
「そんなことはどうだっていいんだよ!
今問題なのは、お前が俺を裏切ったことについてだろ!」
こんなどなり声は初めてきいた。
前から嫉妬深い人だとは思っていたが、まさかここまで人柄が豹変してしまうなんて。
「違うの・・・!
そうじゃない、私は浮気なんてしてない!
私は昴くんを・・・・・・っ」
思わずオレは口をつぐんだ。
(裏切ってないって言えるのか?
オレは、裏切っているだろう?
出会った時からずっと、今でさえ)
今は弁明しなくてはいけないこの時に浮かんだ罪悪感は、酷い言葉でオレを強くぶった。
「・・・・・・・もう、無理」
(あぁ、もう無理だ・・・・・)
「・・・・・・薫?」
思わず吐いた弱音はやがて身体に染み渡った。
もう潮時だ。どんな嘘をついたって信じてもらえそうにない。
それに、仮にこの場を切り抜けられたとしても、いつかはボロが出る。
皆川やママが言ってた通りだ。
『どうせいつかバレるんだから、さっさと言っちまえよ』
皆川の言葉は正しかった。
いや、最初から無理な話だって分かってたんだ。
「昴くん・・・・・・」
楽しかった。
こんなオレが本気で好きになった。
浮気なんて、一度もできないくらい好きだった。
よくもまぁここまでもったもんだ。
夢の時間は終わり。
でもせめて、せめて最後まで、オレを女として見ていてほしい。
視界が歪む。昴くんの最後の顔が怒った顔で残念だ。
とても、とても残念だ。
見ていられなくて、静かにオレは顔を背けた。
「・・・・・・・・別れよう、昴くん」
魔法が解ける前に、オレは終止符を打った。
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