アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
春
-
「…信じらんねえよな。引退なんてよ」
「……そうですね」
隣に座る彼の瞳には、悲しみが滲み出ていた。もうじき垂れてしまいそうとでも言わんばかりに、沈んだ目は潤む。
「ヤだよ赤葦~!俺卒業したくない!」
おちゃらけた調子で抱きつこうとする先輩の態度に、赤葦は抵抗する気力すら無くしていた。
曇った表情の後輩に、男子バレー部の主将、木兎光太郎は淋しげな声を上げた。
「…そっか。そんなノリじゃねえか」
諦める素振りを見せ、再び身をよじらせる。ゆっくりと赤葦の体を包み込んだ。体温が共有し合うかのように、まだ少しだけ冷たい春風が2人を包み込んだ。
「春って、こんなに寒かったっけ」
「…」
答える様子はなく、ただじっと体をこわばらせる。赤葦は、少しも口を動かす気はないようだった。
呆れたように瞼を閉じると、静かに抱きしめる力を強くした。
「なんで。喋ってよ赤葦」
「…」
木兎が問いかけるが、返事はない。俯いた状態から、表情を読み取る事は出来なかった。
もう一度強く抱きしめる。肩がかすかに震えた、その時だった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 247