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#126
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変に緊張して、鼓動がうるさかった。
俺はその騒がしい胸を押さえて、必死に声を振り絞った。
「…あの、…ごめんな、明良と話したかったか…?」
『うーうん全然、気にしないで。元々明良から掛けてきたんだし。…それで?武博はどうしたの?』
優からの単刀直入な言葉に、何て話したらいいのかちゃんと考えていたはずだったのに、言いたい言葉がきちんと口から出てくれない。
…ど、どうしよう…、何て言ったら……。
「…あ、あのさ…。昨日のこと、なんだけどさ…。」
『…昨日…。……あぁ、あのことね!』
優は小さく昨日、と呟くと、すぐに何かを思い出したかのように声を上げた。
俺は、昨日俺が優のことを怒らせてしまったことを思い出して、怒りを呼び覚ましたのではないかと思った。
でも、実際はそうではなかった。
本当なら、俺が優に謝るはずなのだが、なぜか俺が優に謝られる立場になった。
『昨日はごめんな、武博。』
「な、何で!優は何も悪くないよ…!」
『いや、そんなことないよ。…俺、無神経なこと言って武博のこと責めてた…。』
…違う…。
……優は無神経なんかじゃない。
優が怒ってああ言っちゃうことだって、仕方ないことだったんだ。
…俺が、今目の前にいる相手が、今の優と、昔の優や光と区別がつかなくなって、適当に言ってしまった言葉のせいで、優が混乱してしまっただけなのに…。
…俺がいけなかったのに、何で俺、優に謝らせてるんだよ…!
悔しくて申し訳なくて、喉の奥が焼けそうに痛んだ。
でも、それを伝える言葉すら見つからない。
「…違う…!何で優が謝るんだよ、俺が…っ、……ん…。」
間違ったことを言っちゃったんだ、と言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
…俺はまた、言ってはいけないことを言ってしまうところだった。
今の優にとって、俺の話す『優』は2つ姿を持っているように感じるのだろう。
1人は、俺と一緒に昨日のケーキ屋によく行っていた『優』。俺らに言わせれば、それは光のことだ。
もう1人は、本当の『優』。甘いものが苦手で、俺のこともただの友達…、いや、本当はクラスメイトにしか思っていないかもしれない。
…俺は、今電話の先にいる優に、どちらの優のことを話せばいいんだ…。
……そんなの、本当の『優』に決まっている。
そもそも、光は優の中から生まれたんだ。
優のことを思い出してくれることのほうが大切に決まっている。
……でも。そうしたら、アイツは…?
…光は、どうなるんだ……。
光のことを思い出してくれないまま、ずっとそのままだったら…?
…優の闇はなかったことになって、光なんていう、闇を抱えることを目的とした人間なんて生まれなかったことになる。
優は、辛いことを全部忘れて、『山岡優』としての楽しい人生を過ごしてきたことになって、これからもそう過ごせるはず。
なんて素晴らしいことなんだ。
苦しみがない、楽しい人生を一から始めることになるのだ。
一からリセットされた感情、人生を作ることが出来るのだ。
そんなの、誰しもが一度は望むことだ。
……『もしも、人生をやり直せたら』
だけど、みんなそんなのは絶対にありえることではないと諦め、今の現実と向き合って生き続けてきた、生き続けなくてはいけない。
でも今の優には、それが出来るかもしれない。
人間が夢見てきたことが可能になるのかもしれない。
今まで辛いことがたくさん重なってきた優になら、そんな奇跡が起こってくれたって、神様は怒らずに認めてくれるかもしれない。
そうなったら、最高だよな…最高なはずだよな…。
………だけど………。
…でも……。
………光との思い出は…?
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