アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
#133
-
気付いた時には、香織さんは泣いていた。
ぽろぽろと涙をこぼしながら、口元を押さえ声を必死に我慢するように泣いていた。
「…香織さん……。」
「…ご、ごめ…っ、……私、ほんと、姉失格だっ…。弟を…、守れてない…っ。」
いつも明るくてサッパリした性格の香織さんが泣くのは、これまで想像がつかなかった。
だけど今の香織さんの姿を見て、いつも弟のために良き姉でいようと気を張って頑張っていたのだと感じた。
「血は繋がってなくても、…優は…、わたしの大切な、弟だから…っ。あの日、光が生まれた日からわたし、ずっと…、何もしてあげられなかった自分が嫌で…っ!いつもそばにいたのに、何にもしてあげられてなくて…!今も、こんなことになっちゃって…。…私が…もっと、しっかりしてたら…っ!」
光が生まれた日から、きっと香織さんはずっと後悔していたのだ。
毎日顔を合わせて、声を聞いて、同じ家に住む弟が苦しんでいることに気付かず、何もしてあげられなかったことを心から悔やんでいたのだ。
「………香織さ……。」
俺は、泣いている香織さんに何と声を掛けるべきかわからなかった。どうしてあげたらいいのかわからなかった。
ただ、黙って隣に座り、その嗚咽と後悔の言葉、そして優への謝罪の言葉を聞き続けた。
しばらくしてゆっくりと涙が収まり、香織さんは目元をティッシュで押さえ涙を拭いた。
「…ごめんね、こんなみっともないところ見せちゃって…。」
「いえ、俺だって香織さんに泣いてるところ何度も
見られてますし…。」
「ふふっ、そうね。…そろそろ優も帰ってくるかしら。」
「ですね。……優、道に迷ってなきゃいいですけど。(笑)」
「あー、ありそうね!今に、姉さんここどこーって電話してくるかも!」
2人で優の帰りを話していると、ちょうど玄関のドアが勢い良く閉まる音が聞こえ、優の「ただいまー」という声が2階まで聞こえてきた。
「お、噂をすれば。ちゃんとお遣い行ってこられたのかしらねー。」
香織さんは立ち上がり、両手で自分の両頬をパシッと叩いた。
「…よし!じゃあ、もうクヨクヨしないで、良いお姉ちゃんに徹するぞ!武博くんも、あいつのことよろしくね。」
そう言って優の部屋から出て行った香織さんは、何だか少しスッキリした顔をしていた。
その後、お遣いを終えた優が部屋に戻ってきた。優は戻ってくるなり、ベッドにダイブした。
「ふぁー、疲れた〜。」
「お疲れ。ちゃんと行ってこれたか?道に迷わなかったか?」
さっきまで香織さんと話していたことを言ってみた。すると、優は少し不貞腐れたような表情で言う。
「んもー!何で武博までそれ言うんだよ。帰ってきたら姉さんにも言われたし!お遣いくらい迷わないでちゃんと行ってこれるって!」
「ははっ、香織さんにも言われたんだ!」
「そんなに俺って頼りないのかよ。子供じゃないんだからこれくらい大丈夫だっての…。」
枕に顔を埋めながら言う優。
…大丈夫。ちゃんと笑って話せてる。
俺はホッと胸を撫で下ろした。
「…なぁ、優。
俺たちの期待が大きすぎて、優が混乱することになっちゃってごめんな。
……ゆっくりでいいから。
優は、俺たちのことなんて気にしないでいいから、ゆっくり記憶を取り戻してくれ。
また、俺たちの言葉を変に感じたり、怖いって思ったらいつでも言ってな…。」
優は枕に顔を埋めたままだったが、俺の言葉を聞いて、静かに頷いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
136 / 162