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#157
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……優を守り、必ずあいつらを幸せにすると決めたのに……。
誰かの幸福を願い、そのためにがむしゃらになることは、こんなにも難しいことなのだろうか。
俺たちの何が、いけないというのか。
俺の、何が間違っていたのか。
彼に、何が足りないというのか。
隣に座っている香織さんは、ゆっくりと俺の背中を撫でてくれている。そして、穏やかな声で言った。
「……ありがとう、話してくれて。…武博くんも、怖かったわよね…。怖かったのに、優のことを心配してくれてありがとうね。」
感謝の言葉を貰えたのに、俺は顔を下げたまま大きく首を横に振った。俺には香織さんの感謝の言葉なんて受け取れない。受け取る資格なんてない。
俺は何も出来ていない、優のために何もしてあげられなかったのだ。苦しみに埋もれていく優を救えず、そのせいで今も優は意識が戻っていないのだ。
……そんな無力な俺には感謝される点なんて何一つない。
「……香織…。」
静かな病院の廊下に、消えてしまいそうな声が小さく聞こえる。
声のする方を見ると、さっき主治医と一緒に歩いて行った香織さんのお母さんが戻ってきていた。
涙を目にいっぱい溜めて、今にも泣きだしそうな顔をしていた。以前に会ったときに比べ、だいぶ痩せたように感じる。頬はあんなに痩せこけていただろうか。香織さんや優を養っていくためにたくさんのことを背負ってきたのだろう…酷く疲弊しているように見える。
その痛々しい姿を直視することが出来ない。それでも、俺は長椅子から立ち上がり、頭を下げた。
「……………っすみませんでした…。」
思っていた以上に自分の声が弱々しく震えていることに驚く。それでも、香織さんやお母さんの方が、俺のそれらよりもずっと怖くて、不安で、どうしたらいいのかわからないはずだ。
どんな言葉を…どんな態度を取ることが、俺のすべきことかわからない。ただ、頭を下げて謝罪することしか出来ない。
「武博くんが気に病むことは何もないのよ…。優も、きっとすぐ目を覚ますわ、だから……、「…俺…。」」
思わず香織さんの声を遮ってしまった。
だけど、どうしても、部屋で見たあの夢のことが忘れられない。
「………俺、夢…を見たんです……。」
廊下での優とのやり取りは、自分の体験していること・目の前で起こっていることなのに、現実を受けいれることを頭が拒絶していたのか、すごく現実味のないモノクロの世界に見えていた。
「……夢……?」
それなのに、あの夢は変にリアルで…。怖いくらいに現実味を帯びていた。
まるで、あの夢と同じことが、現実でも起こっていたのではないか、と思えるほど。
「……………優と、…光が……………。
…………一人に戻る夢、です……………。」
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