アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
#32
-
優が出ていくと、部屋の中はシンと静まり返った。
初対面の人と2人きりになり俺は少し緊張したが、香織さんはそんなことはないようだった。
軽くのびーっと体を伸ばし、優のベッドに寄り掛かった。
「………武博君。…あいつといて辛くない?あいつ乱暴だし、すぐ物壊しちゃうし、人のことなんて全然大事にしないし。」
突然の質問だった。
香織さんは何だか、優に大きな誤解をしているようだった。優は、香織さんが言ったようなことはしない。
俺はその誤解を消そうと、俺の思っていることをありのまま伝えた。
「…辛くなんかないですよ。…優しいですし。」
「……ふーん。……あいつが優しい、ねぇ…。」
そんなことないだろうとでも言うような言い方だった。
俺はその言い方が、すこし不思議だった。
「……ちょっと変なところとかあるけど…、でもいつも優しくて一緒にいて楽しいですよ!」
少し強く言ってしまった気がした。
だけど香織さんは高笑いで俺の不安を吹き飛ばした。
でも、その言葉は俺には理解出来ない言葉だった。
「あっはっはっは!そっかそっか!……まぁ、私の知らないうちに、光も成長するものね。武博君、光と仲良しなのね。光のことをこんなにも良く言ってくれる人、初めてかも!」
━━━コウ…?
…………光って、誰のこと…?
「えっと…、あの…。…………光って、誰ですか…?」
「え?光でしょ?今の。」
香織さんが、自分が今言ったことは当たり前だと言いたそうな顔で、さっき優が出ていった部屋の扉を指差しながら言った。
でも、俺にはそれが理解出来ない。
……香織さん、何言ってるんだ…?
さっき出ていったのは、優だろ……?
俺の背筋に、冷たい汗が流れ落ちた。
「……あの、今出ていったのって、優じゃないんですか…?」
「えぇ!?今のはどう考えても光でしょ!……あ、もしかして武博君、まだ優と光の見分けちゃんと出来てないなぁ~?」
━━━優と光の見分け……?
俺は、開いた口を閉じることが出来なかった。
……意味がわからない。
光って、誰だ?
今ここにいたのは、優じゃなくて光?
…………嘘だ…。
今いたのは、優だろ…?
光なんてやつじゃない…。
あれは、…………優だろ…?
頭が混乱してしまって、妙な冷や汗が出てきた。
俺は、自分のズボンを思いきり握りしめた。
「……………あれ、武博君ってもしかして光のこと、知らなかった…?」
香織さんも、自分が言ってはいけないことを言ってしまったと思ったようだ。
ひどく慌てた様子で、今の話をなかったことにしようとした。
「ご、ごめん!今のナシね!聞かなかったことにして!ていうか、忘れて……!」
…………ムリだ。
俺の頭の中に、香織さんが言った言葉がそのまま残って離れなかった。
━ 『 ……まぁ、私の知らないうちに、光も成長するものね。』
…ピシッ…。
━『武博君、光と仲良しなのね。』
…ピキッ…。
━『光のことをこんなにも良く言ってくれる人、初めてかも!』
…パキパキ…。
━『 え?光でしょ?今の。』
…ポトポト…ッ。
━『今のはどう考えても光でしょ!』
バキバキバキ…ッ!
俺の中にあった優の像に、少しずつヒビが入っていった。
優の像は、ガラス製でとても脆かったから。
……大事なものほど、壊れやすいって言う…。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
33 / 162