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#101
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今日は朝から優と2人である店に行くことになっていた。
窓の外は真っ白な雪景色。
夜のうちにかなりの量の雪が降ったようだった。
俺は厚いコートを羽織り、優の家へ向かった。
家から出てきた優も厚いコートとマフラーをしていた。
男にしては寒がりの女子のような風にも思えるくらいの防寒だった。
軽く「おはよ」と言うと、嬉しそうに駆け寄って大きな挨拶を返してくれる。
……ったく、小学生かよ、こいつは。
微笑ましいほどの子供っぷりの優を連れて、俺は先を歩いた。
実を言うと、今日行く行先をまだ優には伝えていない。
一番最初にあの店を見たときの優の反応が見たいからだ。
ほんの少しでもいいから、あの店を見て、記憶が戻ってほしい。
そう願っているからだ。
「……そういえば、今日は明良は来ないんだっけ?」
「あぁ、うん、そうなんだ。最近ずっと俺たちと遊んでて、部活全然出てなかったから、たまには出てこいって顧問に言われたみたい。…明良、ああ見えて次期部長だからな。しっかりしないと、って言ってたよ。」
「あー、部活ね!そうだったね!え、明良部長なの!?すげー!上手いって言ってたもんな!」
「小学のときからやってたみたいだからな。……優だって上手かったよ?ドリブルとか上手かったもん。」
「…………んー…、全然覚えてないけどね…。…だから、何気に早く明良とサッカーしてみたいって思ってるんだよね。」
「そういえばそんな約束してたな!…俺もあんまり2人がやってるサッカー見たことないけど、他の友達から聞くと、いっつも凄かったって言ってるから、すぐに感覚とか元通りに思い出せると思うよ。」
「そ、そうかなっ。…へへへ。」
他愛のない話だったけど、優と2人きりで出掛ける初めての道。
子供のようにはしゃぐ優ほどではないが、俺の足取りもそれなりに軽かった。
そうしてようやく目的地に到着した。
「……優…。ここ、覚えてないかな…。……俺たちがよく食べに来てた、ケーキ屋なんだけど…。」
そう、俺がひそかにずっと優のことを連れてきたいと思っていたのは、かつての優…、光とのデート場だった、思い出のケーキ屋だ。
このケーキ屋は、俺たちが初めて名前で呼び合った日。
全ての始まりだった場所でもあり、今思えば、ここで二人でケーキを食べた日から、俺たちの関係は壊れ始めていたのかもしれないと思える。
あの日、光が優は甘いものが好きだということを俺に誤解させてしまい、それがきっかけで俺は優のことを不審に思い出したのだから。
だとすれば、俺たちは相当前から壊れ始めていたのだ。
ここで起こったことが始まりで、そこからボロボロと少しずつ壊れていったのだ。
だからこそ、俺は再びこの場所から始めたいと思う。
気付かずに失い続けていたものがこの場所からなら、 直していくものも、ここにあるのかもしれないと思えた。
だから俺は優と2人になれる今日、足場の悪い中ここまで来たのだ。
ここであのときのようにケーキを食べれば、何かが変わるかもしれない。
何も思い出せなくても、今の優にとっての俺が変わるかもしれない。
そんな可能性を胸にひめて、俺は優を見た。
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