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#117
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少し俺のことを小馬鹿にしたような表情で言う明良。
でも、その顔の瞳には確かに確信のような強い意思が籠っているようだった。
「……どういうこと…。」
「………タケの言ってるのは、身体的のこと?それとメンタルのこと?」
「……そ、そんなの……、…両方に決まってるだろ…。」
答えると、明良は今度こそ俺を馬鹿にしたように笑った。
「はははっ、タケ、マジでそう思ってんの…?」
「…な、何だよ…。」
「………だからぁ…。…そんなの、ムリだってば。」
馬鹿にしたような言葉がこんなにも俺の胸を抉るとは思ってなかった。
何の根拠も聞かされていないのに、変に自信たっぷりに語る明良が怖かった。
「…タケ、人生甘く見てんじゃないの?
………人は、傷付かずには生きていけない。
……それと同じように、人は誰かを傷付けずには生きていけないんだよ。
身体のことでも、メンタルでも一緒。
人は、生きてるから傷付くんだよ。傷付くのは、そいつが生きてる証。
タケがもし、必死に頑張って、優たちのことを身体もメンタルも何も傷付けずに一緒に過ごせたとする。
でもそれって、その人生はもう優たちのものじゃないだろ?
お前が守って、勝手にこれはこうしたいとかあれはああするんだとか言って、自分の言いなりにして左右させてきただけになる。
それこそ、優たちはそんな人生になんて喜べないし、嬉しくないだろ?」
俺の少し前を歩いていたと思っていた明良が、気付いたときには俺のすぐ目の前に来ていた。
そして、明良は俺の肩を強く掴んで言った。
「…タケ!…苦しいのはわかる、お前だって辛いのはわかる!
…でも、その辛さに負けて、正しいことを見失わないでくれよ…!」
悲壮感の溢れる明良の姿は、俺にはとても頼もしく見えた。
俺は今日、いろんなことを思った。感じた。考えた。
頭の中がごちゃ混ぜになって、何度も混乱した。
…優のことを傷つけて逃げてしまった。
…会いに来た明良は、俺を好いてくれていた。その気持ちは友情などではなく、俺が優たちに抱いているものと同じ感情。
…その明良に半ば無理矢理襲われかけた。
…でも、そのおかげで、明良が俺たちのことをどう思っているのか、俺の何がいけなかったのかを教えてくれた。
……俺はあの日。
…優が目覚め、明良と香織さんに感情任せに『優たちにはもう2度と会わない』と言ってしまったその日。
………その日に、自分の間違いに気付いて、どうすればいいのか教えてもらったはずだった。
でも、俺にはそれだけじゃ足りなくて。
辛いこととか悲しいことがあると、すぐに方向を見失ってしまう。
………そんな自分が情けなくて仕方なかった。
…俺たちは、弱い。
…俺も…優も、明良だってきっと…。
自分の感情に呑まれると、我を忘れて間違った方向へ走ってしまう。
……俺たちは、共に強くならなければならない。
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