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不言色の章17
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雨宮の電話が終わり、彼が引き返してくる気配がする。カイリはスマホを取り出し既にチェックしたメールを開き文字を目で追った。
雨宮の気配が止まる。
気付かなければそのままやり過ごすつもりでいたが、カイリは振り返るしかない。視線が合い立ち上がる。
「雨宮君、…身体はもういいの?」
雨宮に歩み寄る。
するともう少しというところで、雨宮は右手の平を制するようにカイリに向け制止した。
硬い笑顔。それでもこうして堂々と正面から彼を見つめられるのは嬉しい。
…ねぇ、雨宮君。あなたが私に向けている感情は知っている。
あの時の拒絶、私を見透かした事、その屈辱と怒りは忘れていない。巣に連れてきたらその時に思い知らせてあげるの。
勿論素直ないい旦那様になってもらう為。
家族になってずっと二人でいられるように。
「…ありがとう。大丈夫だから。でも、風邪が感染ると悪いから俺に近づかないほうがいいよ。」
足を止める。微妙な距離だ。
本当なら心の中で怒りを爆発させる所だが、既に計画を実行に移し成功している段階のカイリには余裕が出来ていた。
気遣うように言葉を掛ける。
「私は風邪とか気にしないけど、雨宮君は優しいからそういうの気になるんだね。」
「…いつも友達といるのに今日は1人?」
友達?そんな物はいない。周りのダニ共の事?
それでも、初めて会話らしい会話をしている。
「…、少し考え事とかしてて。…そうだ、雨宮君。謝りたい事があって。前、馴れ馴れしく触っちゃったりしてゴメンね。嫌だったでしょう?」
俯いて見せ、心にもない事を言った。
雨宮君が私を見ているのが分かる。
通用するかは別として、ここでできるだけ懐柔しておくに越した事はない。
「…酷くはないんだけど接触恐怖症なんだ。俺も…ごめん。」
接触恐怖症???
ああ、そうなんだ。触られるのが嫌なの?
じゃ、巣に来たらたっぷりとスキンシップしてあげる。
「そうだったんだ。気をつけるね。」
「じゃあ」
雨宮が短い一言と共に走り去る。
その背中がかなり遠くなった頃にカイリは呟いた。
「…ま.た.ね。」
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