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不言色の章18
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四十九院明希は急速に"今"に順応していた。
寸断されていた自我と解放された視界が新しい学びを望んでいる。初めはメールを教えてもらっただけで喜んでいたが、それでは足りなくなった。
楽しい。
自分というものがある事が。
自分の行きたいところに行き、触れたい物に触れる。
聞きたいものを聞き食べたいものを食べる。
知りたい事を学び、応用し、実践する。
それから。
それから。
雨宮に会いたい。
雨宮の声が聴きたい。
雨宮、雨宮、雨宮。
「まだ大学にいってる時間だから、……電話出来ない。」
四十九院明希は自室のベッドでうだうだしながら、俯せからゴロリと転がって天井を仰いだ。
待ってる時間が辛い。
雨宮と会う事に制限があるのは頭で理解しているが、感情が中々ついていけない。社会と言うものが分かっているようで実はそうではない。
子供のような気持ちが電話をしようと暴れるが、それをすると雨宮に嫌われるかもしれない、と辛うじて耐える。
メールは既に送ったからしつこくは出来ない。
視界に入った天井に一点の滲みを見付けると、途端に悪い事を考えた。
蟻。
幸運な事に、蟻はあれから来ていないが、繋がりが絶たれた訳ではなかった。その事を少しでも考えると、もやもやした嫌な気持ちになる。あの蟻の群れが黒い海となって自分を支配する………落ち着かず、冷たく、暗い、あの闇の再来を強く拒絶する感情。
恐怖だ、と四十九院は悟った。
これが恐怖や不安だ。
生きているからこそ備わっている感情。
自分をそこから唯一救い出せるのが雨宮だ。
だから雨宮が好きなのかとも思ったが、その事を良く考えるとそれは違うと胸の中の自分が言う。
雨宮の美しさ。
惹かれたのはまずそこだ。
目を閉じれば思い出す。
あまりに荘厳であまりに巨大な金のエネルギー。
まずはそれに魅せられたのだ。
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