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蒼の章3
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『それでマサエさん背筋が寒くなって逃げるように帰ったらしいよ。だって、もし石の下に猫ちゃんの死体が無くてもさ、これから五匹殺す予定って風にも思えるじゃない?まあ、実際五匹死んじゃってた訳だけど...。本当、可哀想にねぇ。何よりさ、猫にそんな事した人間がいるッていう事に気が付いたらマサエさんガタガタガターッて震えて、そいつがここに戻ってきたらって思うと、猫ちゃん掘りおこす時も生きた心地がしなかったってさ。』
母親が数日前俺に話した内容がリアルに蘇る。
やはりアナウンサーと同じくトーンを落としてひそやかに語った。
そう、これはごく最近俺の実家の近所で起きた事件なのだ。
都会と違って、一部店舗や駐車場などを除いては防犯カメラの台数も殆どない片田舎だ。進展がないところをみても、犯人の姿はかけらも写ってはいない。
つまり、未だ捕まってはいないのだ。
主婦改め、母の友人でご近所のマサエさんは、それ以来悪い夢を見るようになり、少し体調を崩しているそうだ。
こんな事件が近所で、しかも自分の身近な所で起こるなんて思わなかった。
それ以来、坂崎家の前を通るのか何だか憂鬱になった。
なんとなく不快だし、もし近くを通って、庭先にマサエさんの言う6つの石が見えてしまったらと考えると、こんな歳で失業して既に軽く絶望しているのに…尚更運が下がりそうだった。
そして今、アナウンサーから見晴らし山のハイキングコースの途中にある東屋で同じ犯人に殺されて死んだと見られる子ウサギが6匹見つかったとの内容が伝えられた。
今度は殺害方法も詳しく説明され、東屋で見つかったウサギは検査の結果猫より先に殺されていた事がわかった。
"…ったく、悪い奴がいるな"
"頭がおかしい奴がこの町にいるかと思うとぞっとしねぇよ"
常連客がテレビに釘付けになりながら、平穏な日々を揺るがした小さな悪の種を肴にちびちびとビールを飲んでいる。俺も思い出したかの様に麺を啜った。
6つの石で頭を潰された動物達。
子ウサギに猫…。人から見れば取るに足らない弱い存在、その命を石で打ち据えて奪う残酷な人物の心理を想像しただけで、気分は滅入って行く。
……見晴らし山もまた俺の家の近所だった。
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