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蒼の章13
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母はそれから少し考えて俺のおさがりを二着だけビニール袋に入れてカズに持たせた。
「カズ君、いーい?お兄ちゃんの子供の頃の服、リサイクル出すとこだったけどカズくんのサイズにぴったりだから良かったら着てみてーっておばちゃんに言われたって言うのよ?」
カズが頷いて新しい服を嬉しそうに抱えて帰るのを見てから、俺は服なんて全部やりゃあいいじゃんと訴えた。
すると母は、こういうのは難しいんだ、と腕を組んだ。
面倒を見ないくせに子供が施しを受けると親のプライドが傷ついて補助を拒絶されたり、その怒りの矛先が保護すべき子供に向くことがあるのだという。
お風呂に入れた時、カズの体に二.三、傷があったらしい。新しい傷では無かったが虐待する親は体の見えない所に暴力を振るうというから、あんたも気をつけて見てやりなさい、と。
俺は感心して母親を尊敬の眼差しで見つめたのを覚えている。
同時に、カズを守らないといけないと思った。
子供は親を選べないから。
その晩、家族で話し合い何か起きたら児童相談所に連絡すると取り決め番号を各自自分の携帯に入れた。それは俺が大学生の頃で、カズと過ごしたのはほんの三年程度だったが、それでも色々な事があった。
夏の日、夜の10時を回った頃だった。インターホンが鳴り俺が出てみると小さなカズがいた。驚いて、どうしたカズ?と俺が言うと
「お母さんの友達が来て大切なお話をするから、朝まで外で遊んできなって。でも、にぃちゃんぼくもう眠い」
母親が父親以外の若い男を連れ込むのにカズが邪魔になったのだろうということは、火を見るよりも明らかだった。
そもそも父親は家にいるのか?
家の事情を知りたかったが、プライベートな事を聞かれた事を小さなカズが両親に話してしまい、話しがこじれたり両親に警戒されるのもまずかったから控える。
カズの小さな手に一万円札が握られているのを見ると胸が痛んだ。カズの手を引いて家に上げ、風呂に入れてやった。腹を空かせていたらしく母が夕飯の残りを温めなおしてやると物凄い勢いで完食した。どうやら朝から食べていなかったらしい。
カズが、ぼくこの家の子だったらよかったなぁとニコリと笑うと母は堪えきれず涙ぐんだ。
その日、カズは俺の布団で一緒に眠った。安心しきった寝顔だった。
一万円札を握らされてもそれが何をするものか知らずに、空腹を抱えていたカズが痛々しかった。カズがこの家で生まれた本当の弟だったら良かった。他人が出来ることは限られている。両親のどちらかでも親の自覚を持ってくれればと願うばかりだ。行政が指導に入っても、ネグレイトの親がそれを疎ましく思い移転して行方が分からなくなり、子供の環境は変わらないという悪循環になる事もあるそうだ。
だから、カズの親がちゃんとカズを小学校に入れた時には胸を撫で下ろした。俺は就職が内定して、この土地を離れる時が刻々と迫っていたからだ。
もう、遊んでやれなくなるわけだし、カズが相変わらず周りの子供達から孤立している事も知っていた。
あの日から8年、俺は忙しい日々に流されて故郷に戻る事も出来なかったから本当に久しぶりの再会だった。
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