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玄の章2
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雨宮亮は僅かに俯くと睫毛を伏せた。
恋愛なんてあまりにも自分とかけ離れている。
近付く教授の足音だけを聞きながら、これまであった事を思い返した。
良い思い出なんて一つも無い。
心象は荒廃して寒々しさばかりが目立つ。子供の頃から雨宮には人に見えないものが見えた。所謂霊魂と呼ばれる存在だ。また、触れたものから人の記憶や感情、時には思考…(雨宮はこの現象をレコードと呼んでいる)…が伝わって来る。様々な能力の内、雨宮を一番苦しませるのは人の寿命が見える事だった。
と言っても、全ての人間の寿命がわかるわけでは無い。
雨宮に見えるのは、特定の状態の人間だった。
即ち、今から一月以内に亡くなる人間。
黒い靄の様なモノが頭を覆うのだ。いくつか段階があるが、蚊柱にたかられているような濃度のものもあるし、墨のような黒さになって顔が全く見えなくなる人もいる。顔が見えなくなったら死期は限りなく近い。
死因が病死か事故死かで黒い靄の出方も変わる。
初めてそれを認識したのは家族が親戚の娘の結婚式に出席する為に出掛けようとしている時だった。雨宮は風邪をひいて熱を出し祖母に預けられていた。その時、出掛ける家族の顔が突然真っ黒になり驚かされた。
幼かった雨宮は、怖くなって頭につけている黒いのを取ってほしいとごねた。子供ながらに悪い予感がして不安だった。
けれど結局、熱に浮かされていると思われ大人しく寝ていなさいと注意を受けただけだった。
家族の乗った白い乗用車は結婚式の帰り道、飲酒運転していた若い男のトラックに真横から突っ込まれ爆発炎上。唯一、火にまかれる前に家族全員が即死していたのが救いだった。
雨宮は一瞬で両親と姉を失った。
まるで、自分が変な事を言ったからそれが起きた様に感じて雨宮は心を閉ざした。
あれから雨宮は何とか現実と向き合って立ち直り、事故を起こしたトラック運転手が無記名で毎月送ってくれるお金をありがたく頂戴し大学まで来れた。
無記名でも、簡素な茶封筒に触れれば誰が送ってきたのか直ぐにわかる。彼の後悔と懺悔、謝罪の感情が指先から伝わって来る。
雨宮は最早トラック運転手を恨む気持ちにはなれなかった。
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