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玄の章5
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恋愛妄想も子供の頃は可愛いレベルだったから乗り切れたが、思春期になる頃から知識と共に性的目覚めがある。
雨宮の外見だけを見て憧れる異性は多かった。そんな女子達のピンク色の妄想の中では雨宮の人格を無視した展開が広がり毎回辟易した。異性を相手にしない雨宮を何様だと腹をたてる同性の嫉妬も酷くなり自然と一人でいることを選択するようになっていった。
友達を作る事は大分前に諦めた。
仲良くなりかけた人物はいたが、相手のいう言葉と心の声が間逆だったり、嘘をつかれたり、悪意や妬みが伝わって来たりと長くは続かなかった。それ以前に雨宮の生きる世界は死者と生者が共に存在する特異なもの。
死者に命を狙われる事もしばしばあり、危険が隣合わせの毎日だった。
例の黒い靄から死期の近い人を悟り、なんとか救おうと頑張ってみた事もあった。靄の薄いうちは稀に何とかなることもあったが、顔が見えない程黒くなった人を助ける事は一度たりともできなかった。
やがて黒い靄が雨宮の心に重荷として降り積もり、孤独は深まる。今では、それを見かけただけで底なし沼に沈んで行くように気持ちが落ち込んで行く。
どうやっても普通には生きられなかった。
家族が他界してから、雨宮は表情を無くし、心を閉ざした。
家族を失った事も大きかったが、高校入学あたりから俯きがちに歩くようになり、人からも霊からも顔を隠す様に眼鏡を掛けた。
どこにも居場所がない、
それが今の雨宮だった。
雨宮は実家の一軒家を事故の後どうしても処分出来なかった。定期的に訪れて掃除して保存している。
どうしても辛くなったら訪れて、家具に触れた。
すると楽しげな談笑が聞こえて来る。
生きていた頃の家族の声。
これは《レコード》だ。サイコメトリーというらしいが、雨宮の中では、この能力が何なのか知らない頃に自分で名付けたレコードの方がしっくり来る。
物に残った想念や転写された記憶のようなものだ。
家は、たった一つの雨宮の避難場所だった。
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