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玄の章6
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リビングのテーブル。
自分の場所だった椅子に座り誰もいない、これからも座る者のない残りの3つの空席を眺める。
慈しむようにさらりとテーブルを撫でてそこに突っ伏すと、声が聞こえて来る。
…みんなご飯よ。亮、お父さん呼んできて。…
…香澄、ほら座って…ケータイは後にしなさい…
…はーい…
…今日はヒレカツかぁ!香澄、お前豚になるぞ〜?将来心配だから、お父さんが食べてやろうか?…
…ダーメ!私もすきなんだから!亮から貰ったら?…
…いいよ!お父さんに一つあげるよ…
…お?亮は優しいなぁ!香澄は姉ーちゃんなのに冷たいなぁ?きっとお父さんがじーちゃんになった時、面倒みてくれないだよ…
何気ない日常会話。
特別楽しかった時や強い思いがあった時などは物に強く遺る場合がある。そういった時のレコードは優先されて再生される事が多い。
だが、今日のレコードはまだ聞いた事のないパターンだった。少し驚いて、アタリを引いたみたいに嬉しくなる。
家族の声はリアルで、幸せに満ちていた。
雨宮の幸せはこの止まった時間の中にだけあった。
「母さん、父さん、姉ちゃん…どうして俺を一人にしたんだよ」
ポツリ呟く。
家族は死んでから一度も姿を見せなかった。
マイナスばかりの能力だが、死んでしまったとしても家族が見えればと期待もした。
家族に逢いたかった。
逢いたかったのに。
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