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玄の章15
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その日の二時限目。
呼び出しがかかり、クラスメイトが校長室に呼ばれた。
驚いたようにクラスメイトは立ち上がり、一度だけこちらを見た。
雨宮は視線が絡み合った瞬間抱えていた怒りを忘れた。
自分は彼の母親に信じてもらえるよう話を出来なかった。
気味が悪いと思われるのが嫌で、体裁を気にして言葉少なに伝えただけだった。あんなもので、信じて貰える訳がない。
クラスメイトの母親にも彼自身にも何一つしてあげられなかったのだ。
無力。
これほど自分が矮小な存在に思えた事は無かった。
教室がざわつく。
多分彼の母親は亡くなった。
彼は自分と同じ辛さをこれから体験するだろう。
手足の指先から痺れたように冷たくなり、心臓はバクバク煩くなるだろう。
もう二度と会えないという現実を、心の準備無しに突きつけられる。
とてつもない悲しみに支配されて心が悲鳴をあげ、これから暫く眠れない夜を過ごす事になる。
身体は憔悴する。
今日と同じ明日が来ない事を知る。
もう二度と声が聞けないと知る。
二度と笑顔を見れないと知る。
願望から夢に故人が現れ、
母親が死んだなんて夢で良かったと安堵する。
そして残酷な朝を迎える。
少し前まで自分で考え行動していた家族は、冷たくなり二度と活動しない。人から物になり、何から何まで葬式業者の世話になって、背景を消された合成写真が出来上がる。
料金別に葬式のランクが決められ、金を払えば良い戒名をつけてもらえる。地獄の沙汰も金次第だ。
吐き気がして止まらなかった。
どうして、助けられなかったのか。
彼にとって一生の事なのに、ちょっと言われたくらいで腹を立て彼の母親の命を放り出した。
所詮、他人事だったのだ。
自分は嫌な人間だった。
クラスメイトが教室に戻って来た。
真っ白な顔には表情が無かった。
鞄を取ると 無言で出て行く。
雨宮は、彼の顔を見れなかった。
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