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灰赤の章8
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雨宮は定食屋を出て、足早にその場を通り過ぎた。
男はヴェールを被ったみたいに詳細がはっきりと見えなかったのだが、近くで見た時自分より一回り程年上だと分かった。
学生の時にはクラスの中心にいただろう。
人の良さそうな顔で、友達も多そうだ。雨宮とは遠い人種だ。
だが、健康そうなのに元気がなく、何か問題があって彼を悩ませている様だった。
何があったのだろう、そう考えるとすぐにイメージが湧いてくる。仕事での大きな失敗、責任感、そして挫折。
歩いていたが、彼のことが早く知りたくて立ち止まり、あたりを見回して集中出来るところを探す。
雨宮は寂れた公園を見つけて移動し、ベンチの一つを確保できた。そうして、もう一度指先から拾った情報を整理し始めた。
彼が田舎に戻って来た事、彼がカズと呼ぶ弟のような存在と最近再会した事、彼が動物虐待事件を、とても気にかけている事、犯人を見つけたいと思っている事。そして、犯人として彼が疑っている人間がいる事。
「東京さん、か…」
自分と年齢が近そうな青年東京さん。
東京さんに焦点を合わせて潜り始めた時、彼の体の周りにマイナスの気が嵐のように吹き荒れていた。
暗い旋風の中心に青年は表情無く立ち、此方を見ていた。
彼を取り巻くものは高速回転する動物の頭、唸り声。
雨宮は目眩を覚えてこめかみを揉んだ。
そして集中を解く。
あの青年は誰だ。
嵐のような負の気、今限りなく犯人に近い人物だ。
硝子玉みたいな瞳は死者の様で不気味だ。
けれど、ここは他人の心象の世界。
自分で確かめなければ真実は見えて来ない。
それは犯人と生で対峙する事を意味する。
喧嘩さえした事がない自分が冷血な犯人と逢い、証拠も無いのに、なんて切り出すんだろう。
そんな事本当に出来るのだろうか。
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