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苦色の章6
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雨宮の頭は未だこの状況を理解出来ずにいる。
だが、勘が働いた。
自分でもびっくりする様な音量で叫ぶ。
「生きろ!!四十九院明希!!!!」
左目を残して蟻に覆われた四十九院の目が大きく見開かれた。覆われる寸前、雨宮は蟻だらけの四十九院の手を取った。蟻が潰れたが気にならなかった。
生きろ?
虹の目の声が何度もこだまする。
何かが剥がれ落ちた気がした。
もう疲れて諦めようとしていたのに。
自分の何処にそんな力が残っていたのか。
四十九院は虹の眼の手を思い切り握り返した。
二人の間で潰れた蟻は灰になり風に散った。
世界に亀裂が入って崩れる。
そこから眩い光が爆発的に射し込んで来た。
瞬間、雨宮の魂は彼の意識から飛ばされた。
目を開くと、雨宮は河原に寝転んでいた。
背中が痛む。
蝉の鳴き声。川のせせらぎ。
彼の世界を出て現実に帰ってきた。
四十九院は立ったまま。
石を振り下ろしたあの直後のままだ。彼の精神世界の中での体感時間と、現実の時間の流れとには隔たりがある。多分、数秒しか経っていないはずだ。
二人は揃った調子で荒い呼吸を始める。
今見てきた事は魂レベルでの現実だ。あの後、蟻は、四十九院の幽体はどうなったのか。今、目の前に立つこの男の中身は…そう考えると恐ろしかった。
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