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苦色の章14
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気持ち悪いというより、ただ驚いて困惑したというのがキスの正直な感想。それから怒りと屈辱、また当惑。
少し冷静になると、さっきの行為が四十九院の心象や生命の危機を変えたのは間違いなかった。
四十九院の中で最後に見た光景。
彼が発する真っ白な霊気。
あんな無垢な色を雨宮はこれまで見たことが無かった。
どす黒い蟻の心象はすっかり消え失せた。
それどころか、動物霊達の波動まで消えている。
組み敷かれたのは今思い出しても腹立たしいが、さほど体格も変わらないのに跳ね除けられない圧倒的な力だった。きっと四十九院の脳のリミッターが外れて驚愕的な力を発揮したのだろう。例えば、火事場のクソ力と似たような仕組みだ。アインシュタインは、人間は生涯にわたって脳の機能を10%しか使っていないと言った。現代では人間は脳を満遍なく使っているのがわかっているが、省電力制で一度に使えるのが10%程度で他は休ませている状態らしい。
脳の機能を一度に動かすエネルギーがあればもしかしたらIQや身体機能を飛躍的に上げる事が出来るのかもしれない。そして、望んでもいないこの霊能力は、もしかしたら残りの90%に秘密があるのかもしれない。だとしたら、いずれ薬でも開発されて全員が霊を見れるような日が来るのかもしれない。
手首が少し痛んで四十九院を警戒しつつ確認する。押し付けられた時に痛めたのだが、砂利の形に合わせて不規則に内出血しているようだ。自分で決めて始めた事だが、雨宮は眉をしかめた。目の前の男は今は別人のように大人しく安定している。
さて、これからどうするか。
不思議そうな顔をこちらに向ける四十九院と、一定の距離をとりながら雨宮は考えあぐねる。
そのうち、遠くから女性の声が聞こえて来た。
雨宮と四十九院は揃ってそちらを見た。
「母さんだ。虹の眼とまだ一緒にいたい。帰りたくないな。」
「…いや、帰れよ。」
雨宮は視線を合わせず吐き捨てるように言った。
四十九院が縋るように訴える。
「蟻がまた来たら嫌だ。虹の眼なら追い払える。」
「…お前が自分で追い払った。」
「虹の眼がいなかったら蟻になってたよ。」
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