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苦色の章15
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雨宮は四十九院を見た。
心底不安そうな様子にチクリと胸が痛んだが、自分の頭を石で打ち据えて殺そうとしたのは事実。
実は正気に戻ったふりをして、自分を殺す機会をうかがっているという考えも振り払えない。
けれど、消えてしまった動物霊の事はどう説明しよう。
こんなパターンは初めてだった。
四十九院が占拠者と呼ぶ存在について、どう解釈すれば良いのかもわからない。
それに、そもそも追い払うのに必要な行為が何でキスなんだと考えると思い出して腹を立てた。
そうしてるうちに四十九院の母親がやって来て、息子が自分意外の人間と一緒にいたことに心底驚いたようだった。
四十九院の顔には捨てられた子犬のような失望の色が浮かんだ。
母親は雨宮と目が合うと大概の人間がなるように、あまりに整った容姿に一瞬ドキリとし、四十も後半にさしかかった女性に根本的な心理が働き乙女の顔になった。その後母性が働いて母親に戻ると、そこで柔らかく微笑み会釈した。
雨宮はというと、これから嫌味の一つでも言ってやろうかというところだったのだが、母親の手前流石にまずいと慌てて喉の奥に引っ込めて真面目な顔で会釈を返した。
母親………。
その存在があるだけで四十九院が羨ましい。
息子を心配し傍らに寄り添う姿。過去には自分にも確かにあった筈なのに今はもうない。
母親は、息子の背中をさすりながら雨宮の様子を不躾にならない程度に足下から顔までサッと視線を走らせた。
怪我がないか気にしたらしい。
心労なのか、少しやつれて見えた。
「こんにちは、明希の母です。もしかしたら、明希が迷惑をおかけしなかったかしら?この子は、少し問題を抱えているの。」
「…いいえ、さっきここで会って少し話をしたくらいですから、心配しないで下さい。」
「明希と話を?珍しいわ。中々人を寄せ付けないの。なるべく1人にしないようにしているんですけれど、調子の良い時はこうして1時間程散歩に行く事もあって。この街で静養する事にしたのが良かったみたい、ね?明希。」
貴女の息子に殺されかけました、とは勿論言えない雰囲気だ。雨宮は曖昧な笑みを浮かべて頷いた。母親が付きっ切りなら問題ないかもしれない。
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