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苦色の章17
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四十九院の母親の姿はどんどん小さくなって、やがて建物の向こうに消えて見えなくなった。四十九院明希もなぜかほっとしたような表情を見せた。雨宮はようやく四十九院に向き直り声を掛ける。
「おい。」
「虹の眼、雨宮っていうんだ。」
「それ、人前でその虹の眼って呼ぶのはやめろ。」
「……わかった。」
素直に頷く四十九院。
全く調子が狂う。少々呆れ顔で座り込んでいる四十九院の隣に自分も座った。この男の事をもっと良く調べなければならない。正直今日はもう疲れたというのが本音だが、この男の正体が詳しく掴めなければ安心して過ごせないのは確かだった。
「四十九院明希、もう一度あんたの頭の中に入ってもいいか?あんたを良く知りたい。初めて会った時、動物霊がまとわり付いていた。でも今はもういない。蟻と共に去ったというなら、その理由も知りたい。」
「いいよ。虹の……雨宮は、占拠者じゃ、ないから。」
「……。じゃあ、これから手を握る。…今、蟻の気配はあるか?」
四十九院は首を横に振った。
その言葉を信用して彼の手に触れた。
暖かい、血の通った人間の手。雨宮はそっと眼を閉じた。
相手の意識に深くダイブする。
また独特の浮遊感にうなじが逆撫でられる。
静電気に全身包まれたような感覚の後、三度雨宮は四十九院の世界へやって来た。
真っ白だった世界は緑や様々な花の色彩が加わり美しく変貌していた。
ふわりと柔らかい草野の上に降りると、すぐそばに四十九院が河原と同じ姿勢で座り込んでいた。
その身体は白い気でうっすらと包まれている。
四十九院の世界の中でも現実と同じように彼の手に触れた。
心象などではない、四十九院のそれは正真正銘白い霊気だった。これを何処かで見た、と記憶を辿ると生まれて間もない首の座っていない赤ん坊がこれと同じ気を発していたと思い出す。ハイハイし出す頃には殆ど消えている事が多い。人間と動物を分かつものが精神であるならば、まだ人間が記憶や経験から確固とした個性を持つ前、人間になる前の無垢の頃の霊気だ。
大人になっても白いままなんていう人物を、雨宮はこれまで見た事がなかった。
それも、こんなに強いのは。
四十九院は霊能者レベルの霊気を持っている。
「ああ、やっぱり綺麗だ。俺は、雨宮が欲しい。俺の側にいて。」
眩しそうに眼を細めて四十九院が言った。
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