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榛の章7
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犯人は女性なのか、男性なのか、年齢は?
何もかもわかっていない。
ただ間違いなく定食屋で出会ったあの男は犯人に関わって死ぬ。雨宮は彼をなんとか助けたかった。
そして、四十九院明希も出来れば助けてやりたい。ずっと一緒には居てやれないだろう。大学を卒業し、就職先によっては雨宮はこの街を離れなくてはならない。
それまでに明希の心が侵食されないように、身を守る術を身に付けるかせめて卒業までに蟻を限定し人を殺す前に突き止めて世の中に明らかにしなくてはならない。
四十九院明希。
自分以外で初めて出会った能力者。
霊能者と呼ぶにはお粗末かも知れないが、彼がその能力のせいで自分の人生の大半を無駄にして来た事は明らかだった。
「…俺と同じだ」
ポツリと言って、カップ麺を開けた。
この光景が無性に佗びしい。
この孤独がわかるのは四十九院明希だけだ。
常に自分の能力と戦わねばならない生き方は、他人には分からないだろう。学校では変わり者で済むかも知れないが、会社ではそうはならないだろう。
誰にも触れずに、誰とも関わらずに生きて行けるだろうか?それは無理だ。
他人の嘘を見抜いてしまう。
他人の慕情を見抜いてしまう。
他人の悪意を見抜いてしまう。
他人の欲情を見抜いてしまう。
他人の秘密を見抜いてしまう。
生きるうち、自分の心は少しづつ死に寄りつつあった。
雨宮が生きるのは生者と死者が共にある世界。
生者は嘘と欲望にまみれている。慣れればいいとは思うが、簡単には行かない。
その点、死者はシンプルだ。
というより、自分の根底に死を求める願望があった。
死んでしまいたい。
俺も、家族の属するあちら側に行きたい。
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