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榛の章8
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麺がのびる。
マイナス思考をなんとかしようと食事を始めた。
食べる事は生きる事だと柳井教授に幾度も言われた。
食べる事が出来なくなったら人間はおしまいだとも。
死ぬのは簡単だ。だけど、そこに堕ちてはいけないと彼が優しく厳しく雨宮を諭す。
まだ、君が逝くには早過ぎる。生きたくても、死なねばならなかった人達に申し訳が立たないだろう?
いいかね、食べ物を食べ、美味しいと感じるうちは大丈夫だ。私はもう一度旨い鰻が食べたい。二度と叶わないがね。
彼の顔を思い浮かべると心が軽くなる。
やる事をやらなくては。
雨宮はテレビをつけた。
あれからニュースを確認しているが、動物が虐待にあったという話は見ていない。
見つかっていないだけという可能性もあるが、今の所大きな動きはないようだ。
この街で起きた事件は階段から落ちて若い恋人二人が亡くなったというものだけだった。
永遠に一緒なら寂しくないか、と雨宮は不謹慎な事を考えて麺を啜った。
四十九院が携帯を持っていないというので、途中連絡が取れないのが不便だった。メールが出来れば相手の近況が分かるのにと思うが、四十九院が今まで普通に暮らして来れなかったのを考えると親が買い与える訳もないかと納得もする。
別れ際、連絡先を交換しようかとスマホを取り出したのだが、四十九院が携帯を持っていないとわかって眉を顰めたのを明希は見逃さなかった。
携帯端末の存在は勿論知っていた様だが、必要性を感じなかったらしく、急に興味を持って雨宮のスマホを触りたがった。
「どうやって電話するの?」
「どうやってメールするの?」
「それがあれば雨宮といつでも話せる?」
「どこに売ってるの?」
家の電話ではなく自分の持ち物として欲しくなったらしいが、緊急時困らないように財布には母親に持たされた五千円札が一枚あるだけで、そのお金は10年間使われる事もなかったようだ。
河原で偶然会ったのは本当だが、一度会った程度の人間が四十九院の家に電話するのはおかしな話だ。
本当の事を明かせないのは辛い事だ。
理解を得られるなんて思えない。
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