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榛の章11
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「ダメよ。そんなもの何に使うの明希。」
冷たく牽制するような声が出る。
明希が私をじっと見つめる。
そんな目で見ないで。
私の心を見透かすような真っ直ぐな目で。
いたたまれなくなって、俯いた。
明希が私に近づき腕を掴んだ。
「お願い、母さん。今調子が良いんだ。今まで普通の人が通っていった道を急いで追いかけたいんだ。無駄にしてきた事全部。俺がおかしかったから、母さんはずっと嫌な思いをして来た。これからは、普通の人が出来る事を俺もする。まともなうちに。」
「おかしいだなんて、そんな事ないわ!」
「……おかしかったよ!これからだってどうなるかわからない。母さんだってわかってるんでしょ?母さんは思わない?俺がいつか取り返しのつかない事をするかもしれないって。」
「明希!!やめてちょうだい!!!」
明希が悲しげに表情を歪めた。
そして、ごめんなさいと謝ってきた。動揺した自分が恥ずかしくなり、息子を抱きしめた。
息子が自分を恥じるだなんて。
私が明希を恥じていると思っていたなんて。
胸が締め付けられる。
「明希、ごめんね。貴方の変化に私の心が追いついていないのよ。だって、そうでしょう?こんなに話したのは初めてなのよ私達。」
「……そうだね。でも頭の靄が晴れているうちに色々したいんだ。普通だったら出来てた筈の事を思いっきり。母さんも、普通の母親が出来る事を今のうちにしてよ。また、馬鹿に戻る前に。」
私は力なく頷いた。
明希の心が離れた訳じゃない。
私達はようやく現実を直視した。
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