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榛の章12
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次の日の朝。
明希はまだ聡明なままだった。
照れ臭そうにおはようと言ってくれ、まだ馬鹿に戻ってない、と微笑んだ。
つられて私も微笑む。
昨日はいつものように2人で夕食を囲みながら、言葉少なではあったが昼間見た事や他に興味のある事を明希は一生懸命私に話してくれた。
そして、今まで興味のなかった…興味を持てなかったテレビ番組を見始めた。
お笑いや、ニュースや、音楽番組、なんでも。
楽しそうな様子だ。
スポンジのように一気に情報を吸収してゆく。
ああ、これが普通なんだ。
普通って、なんて寂しいんだろう。
そう思ってしまう自分がいた。
けれど、反面明希が逞しく見えた。
私が求めていた姿だ。
本来在るべき姿だ。
この歳まで明希は私と一緒に居てくれた。
幸福だったじゃない。
男の子なら、世間ではもう巣立っていく歳だ。
私のこの寂しさは子離れしていない証拠だろう。
明希に依存していた。
護っているつもりで苦しんでいるこの子に頼っていたのだ。
トーストにバターを塗って明希の皿に置いた。
半熟の目玉焼きとサラダ、何本かのソーセージに牛乳。
ささやかで、和やかな朝のひと時。
私は母親らしいことがしたかった。
彼に尊敬される母親でいたかった。
「明希、今日携帯見に行ってみる?」
「いいの?!」
明希は目を輝かせた。
なんて嬉しそうなんだろう。
おもちゃを買い与えてもこんなに喜びはしなかった。
私は目を細めた。
これでいいんだ。
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