アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
茜色の章2
-
悪寒がした。
背中に生暖かい肉がぶつかる様な不気味な気配。
一気に鳥肌が立つ。
突然襲った吐き気に体が跳ねた。
こんな真昼間に襲われるなんて、悪霊の類が自分を嗅ぎつけてやってきたのかもしれないと雨宮は恐る恐る背後を振り返った。
早川カイリ。
真っ直ぐこちらを見て微笑んでいる。
悪霊ではなかった。
生きた人間が念波を送ってきたのだ。それも、気味の悪い念を。
………思いが強過ぎる。これじゃ生霊の一歩手前だ。
ぞっとしてすぐに視線を前に戻した。
生霊は死霊よりもタチが悪い。
彼女には自分を檻に入れて監禁したいという歪んだ欲望があった。どうやって監禁に至るのかなど、現実的な工程は省かれていたものの、その異常な願望の強さだけは肌で感じる。
前を向いたのに分かる。
彼女が自分を見ている事を。
目を閉じれば真っ暗な空間に彼女の目だけが浮かんで見える。
生霊になってしまえば魂を自由に飛ばす事ができる。
九割は自覚症状が無いのだが、そのうちの一割弱は自分の意思で魂を飛ばす事が出来る。
それに、ふと気付いた。
早川カイリの気の質が少し変わった。
以前よりも攻撃的な色を孕んでいる。
ピンクに黒がマダラ模様に混ざっていた魂の色は、赤や紫が混じりグロテスクだ。
早川カイリ、彼女のそれは正常な色では無い。
この間、邪険に手を振り払ったからかもしれない。内面の欲望は普通外には露見しないものだ。
だから、理由もわからず雨宮の拒絶反応に困惑し傷ついて怒りに変わったという事も考えられる。
雨宮が相手の意思に関わらず秘密を看破してしまうことは誰も知らないのだから。
謝ろうか…。
けれど、関わりたくないというのが正直なところだった。
早川カイリが気持ち悪かった。
背中を撫ぜた生暖かい肉の感触。
思い出すと吐き気がする。
これ以上考えたくなくて、雨宮は午後の事を考えた。
四十九院の様子を見に行く日だ。
前回同様、河原で会う事になっていた。
四十九院の無邪気な表情を思い出すと何故かホッとした。
あんなに深い内面を解放してくれた者は居なかったし、雨宮の事を知っても受け入れてくれた生きた人間は初めてだった。
力を抜いてそばに居れた。
それが、自分にとって思いの外大きかった。
2人ならば犯人を見つけ出せる、そんな気がする。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
88 / 159