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茜色の章3
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チャイムが鳴り、雨宮は急いで荷物を手に席を立った。
早川カイリの事をやけに警戒してしまい、そちらを見ることが出来なかった。早く飽きるなどして、自分から興味を失ってほしい。歩き進む間も視線を感じていた。
まだ、早川カイリが見ている。
そう感じた。早足で廊下を進むうち、いつの間にか走り出していた。
広い大学敷地内を出て、背後を確認しやっと安心した。
落ち着いて来ると、自分の過敏さに気まずさを感じる。
早川カイリが危険な妄想を持っているとはいえ、女だし身体機能で男に劣る。早川カイリがいきなり襲ってくるなんて現実的じゃないし、ほぼあり得ない。
妄想は妄想。
とどめている内は誰にも迷惑を掛けていないのだから、それは当人の自由だ。
これまでだって散々他人の妄想に付き合ってきた。
今回のだって、ちょっと変わっているだけの欲望の欠片に過ぎないはずだ。念をぶつけられた事は驚いたが、本人が意図してやったとは限らない。そこからは歩いて移動し、途中でタクシーを拾って乗った。
行き先はもちろんあの河原だ。
異常が無ければ四十九院があそこで待っている筈だ。
何も無ければいい。
元気な姿を見れればそれでいい。
四十九院にあったら、もう一度四十九院の中に入って別人の意識に侵略されて無いか確認する。
それから、彼の美しい緑の心象の中で対策を練る。
他人に支配されないように、力をコントロールできればいい。
別れる時、邪険にしていた自分の行動が思い出される。
あの時は、殺されかけた不快感が消化しきれていなかった。
それにキスの事がある。
信用できそうだと思ったのに、このせいで素直になれなかった。
「お兄さん、芸能人?モデルさん?女の子にモテるだろ?いやぁ、羨ましいねぇ」
運転手は話好きなのか、始終笑顔で話しかけて来た。
雨宮にしては珍しく笑顔で応対した。
やがて前回来た時に見たのか覚えのある景色を眺めると早川カイリの事は忘れていた。
もう少しで橋だ。
もう視線は感じない。
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