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呂色の章2
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孤独には疲れた。
自分を理解してくれる誰かと普通に生きたい。
いずれ相手が自分から離れて行くとしても、ここで死力を尽くさずに四十九院の人生が終わるなんて考えられない。
不意に車輛に挟まれて亡くなった中学の同級生の母親の顔が浮かんだ。その隣には自殺した加害者の若い女性。
それから同級生の白い顔。
誰も死にたくなんか無い。
誰も大事な人を失いたくはない。
これは雨宮の背負う罪だ。
自分が上手く動けなかった事で最悪の結果になるなんて二度とあってはならない。
ジージージージージージー……
あの音。
占領者の嵐のような雑音。
雨宮はそれに挑む様に呼吸を整える。
心の中で自分の声だけを聞く。
数を数える。
1、2、3、4
1、2、3、4……
心の声に合わせて腹式呼吸をする。
自分の呼吸をする音しか聞こえないほど集中する。
繋いだ手から伝わる温もり、緊張して汗ばんだ手のひらも、硬直して強く握る指の圧力も、四十九院が生きているからこそだ。
瞼をきつく閉じて四十九院のもっと深いところまでダイブする。
深く、深く。
暖かな、それでいて冴え冴えとした魂に向かって感覚を頼りに手を伸ばす。
深く潜り魂に触れる時、雨宮は目を開いた事が無い。
視覚を閉ざし余計な情報を遮断する。
だから、魂が本当はどんな形でどんな色なのか知らない。
でも、感覚的に見ないほうが迷わずに辿り着けると感じるのだ。
四十九院の魂に触れるスレスレの距離まで来た。
目を閉じても明るい光を感じる様に、魂の力を閉じた眼で感じた。通常人は易々とそこに他人を近付けはしない。
けれど、四十九院は雨宮をその真髄まで迎え入れた。
雨宮の全てを受け入れ、自分の全てを晒す気だ。
その絶対の信頼に応える様に、雨宮は自分の力を一点に集めた。これまでの人生で力を全力で放射した事は一度も無い。
それは雨宮が自分の力を恐れているからだ。
……底が見えない。
何処まで力を出していいのか加減がわからないのだ。
生きている人間の魂に向けてどれだけ力を放つのか。
蟻を消し去るのにどれだけ力が必要なのか。
迷いは確かにある。
けれど足踏みしている時間は雨宮には無い。
同じ霊能者である四十九院の存在が大切だ。
プレッシャーを押し退け、ただ久し振りに出来た友人のことを想う事にした。肩の力を抜き、緩やかに力を放つ。
雨宮を包む金のオーラは瞳と同じく虹色の光を孕んで変わってゆく。四十九院の魂は金虹を吸い込み、柔らかく共鳴し、それから世界を震わせた。
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