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銅色の章1
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上も下も右も左もわからない。
普段、誰かから突然触れられない限りは乱れたりしない雨宮だが、自分が今完全にパニックに陥っていることは理解できた。
四十九院の魂により近い場所で漂いながら、本能的に塞いでいるこの瞼を開ければ出口が見つかるかも知れない。
でも、見てはいけないと思ってしまうのは何故なのか。
何故、魂を見てはいけないのか。
恐怖から開けてみようという欲求に駆られたが、限界が来るまでそれはやめようと思い直した。
魂に浅く触れた事はあっても、こんなにも深くまで来たのは初めてだった。
四十九院は自分を全て肯定する勢いで受け入れてくれる。
だから、意図せず深層部まで来てしまったのかも知れない。
冷や汗をかきながら、悪い事を想像した。
もし、四十九院が蟻にやられて自我を無くしてしまっていたら魂はこの場所で彷徨い、体は脱け殻となって心臓が止まるまで病院のベットの上で過ごす羽目になるだろう。
でもきっと、体が死ぬより先に心が狂ってしまう。
その時。
ブツン
一瞬真っ暗になった。
目を閉じていてもわかる。
四十九院の霊気が一部遮断されたように感じた。
とうとう状況が悪化したのだろうか。
心臓の音がうるさい。
体が震える。
「……明希……」
身体中の感覚が、無くした分の四十九院の霊気を追って研ぎ澄まされる。
不安からしがみつこうとする様に。
それからまた一瞬。
消えた四十九院の霊気が蘇った。
それどころか意志を持つ様に雨宮を探り当てて強く取り巻いた。
四十九院が雨宮を探り当てだのだとわかり、雨宮はこれ以上無いくらい安堵し、身を委ねた。
それは、現実世界の喫茶店で四十九院が雨宮の手をしっかりと握りなおした時なのだが、今の雨宮にはどうやって自分を探り当てたのかわからない。
一瞬消えた感覚こそが、現実で僅かに触れ合っていた接触面、雨宮が四十九院の甲に触れた指先から感じとっていた部分であると雨宮は後に理解するが、意識浮上の糸口の1つとして使える様になるのはもう少し後の事だ。
未知の領域に入り迷い込む事は恐ろしい。
魂の死の恐怖から解放され、今は浅い方に向かっていると体感した。
目を開くと、馴染み深い心象世界で地面に横たわり四十九院に抱きしめられていた。
浅い階層に戻れて泣きたいのは雨宮の方だったのだが、四十九院がボロボロ泣いていたので涙は引っ込んでしまった。
周囲を見渡すが、どうやら蟻はいないようだった。
「……泣くなよ明希、ただいま…」
雨宮は小さい子供にする様に四十九院の頭をくしゃくしゃと撫でた。
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