アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
不言色の章8
-
私は目の前の私の患者を見た。
四十九院明希を慎重に診察したが、多重人格でないと見分けるのは困難で、薬を止めさせるという決断に至るまで時間を要した。
カルテを見ると、精神科で渡されてきた薬は多岐に渡っていた。症状に改善が見られなかったので医者が新しい薬、同系統の強い薬といった風に試してきた結果であろう。
フェノチアジン系抗精神病薬、ブチロフェノン系抗精神病薬、
ベンザミド系抗精神病薬の他、セロトニン・ドーパミン遮断薬
多元受容体作用抗精神病薬、ドーパミン受容体部分作動薬など…精神科で症状に合わせて出される薬の種類は意外に多い。
薬物療法の第一の目的は幻覚、妄想、不隠、興奮、抑うつ、躁、焦燥、不安、緊張、強迫、不眠などのさまざまな症状の改善にあるのだが、第二の目的は、症状が安定した後の再発予防にある。それは、精神疾患の相当数が再発性の疾患だからだ。
その症状が、精神病のせいであれ、Soulケース起因であれ、再発の可能性は視野に入れねばならない。
再発が予想される場合には、維持療法へ導入しなければならないし、通常、薬物の不用意な中断は再発につながりやすいからだ。
勿論これらの治療薬全てが四十九院明希に試された訳ではないが、彼が幸運だったのは母親が頑として所謂収容系の精神病棟に入れなかった事だ。昔ながらの悪い流れをくむ病院では、入ったら最後、出ては来れないと患者達の間で囁かれる病院も未だあると聞く。一度重症と診断されれば、リリーのような悲しい境遇になってしまうかもしれないのだ。リリーは17歳になった今でも病院から出ていない。
また、向精神薬にて依存症になった場合、ヘロイン中毒よりも復帰が難しいとさえ言う医者もいる。
ところが、四十九院明希はかなり強い薬を飲んでいたにもかかわらず、不思議な事に身体に副作用も出ず、依存症にもならず
にここまで来たのだった。
四十九院明希には強烈な自浄作用があるのではと私は驚いた。薬の効果を体が打ち消すのなら、それは体が薬物を要らないものとして捉え排出しているのかもしれない。
普通の人間には出来ない芸当だ。
これが、彼がSoulケースであると判断する大きな力となった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
147 / 159