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運命の出会い
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「若っ!待って下さいっ!お弁当っ、お弁当がありますっ!」
爽やかな春の風がそよぐ、朝の住宅が建ち並ぶ街角。
関東進出の拠点として構えた、高級マンションから出て来る大和を、黒のジャージを着た坊主頭の男が追いかける。
「あ?弁当………?」
白地に紺のパイピング、胸元には金の刺繍入りのエンブレムが付いたジャケットを羽織り、白シャツに紺ネクタイを緩めに締めた大和は、これから初登校を迎える高校の制服を、見るからに不機嫌そうに着こなして、追いかけて来る男の方へ振り返った。
「はいっ、これ持って行って下さい。今日は、若の記念すべき初登校ですやろ?この山下、朝5時起きして作りましてん」
そう言うと、山下と名乗る二十代前半と言った位の男は、自分よりやや背の高い大和を、キラキラした目で見上げる。
手には、意外にオシャレな黒の保冷バックを持ち、若頭である大和に早く渡したくて、ウズウズしているようだった。
「キモい。何が、『朝5時起きして作りましてん』やねん!アホ抜かせ……っ。この俺が、坊主頭のムッさい男が作った弁当なんか、食えるか!いらんわ、ボケ」
ただでさえ、高校の事を考えると苛ついてしまう中、一人浮き足立っている山下に、大和は一段とイライラを募らせる。
「ええ~若ぁ、俺は若の身の回りのお世話をさせて頂く為に、付いて来たんですよ?お弁当、是非食べて下さい」
「ああ、ウザい。やっぱ、お前置いて来たら良かったわ。側近としても使えへん。…………それ以上、俺に無理強いしたら、シバくぞ」
朝の清々しさとは裏腹に、濃いキャラを全面に出してくる山下を睨み付け、大和は身体の向きを変えた。
「うぅ…………若……。つれないです………」
自分の気持ちを真っ向から拒絶された山下は、ガックリと項垂れて、これ見ようがしに負のオーラを醸し出す。
「…………ホンマ、殴ってええか?」
大和は顔を引きつらせ、拳を握り締めた。
緑が繁る木々が脇を固め、長い緩やかな坂道。
朝の優しい陽射しに照らされた通学路を、白いジャケットを着た多くの生徒達が登って行く。
「おはよー!」
「ちーすぅ!」
「おはーっ、昨日のドラマ見たぁ?」
「見た見たっ!胸キュンだったよ~」
いかにも楽し気で、沢山の明るい挨拶が飛び交う中に、暗い顔の大和が両手をズボンのポケットに入れ、規定の鞄を脇に挟み、重い足取りで歩いていた。
「…………あかん、無理………。どう見ても、住む世界が違う人種だらけやん。俺、窒息死しそ………」
ここ数年、こんな朝から活動した事はなかった。
ましてや、堅気の同年代と肩を並べるなんて、若頭として勢いのある大和には想像もしていなかった状況に、いまだ現実を受け止められず、ブツブツと不満だけが口から溢れる。
「ねえ、あの人…………」
「転校生?メチャメチャ格好イイ………!」
そんな大和の心境とは裏腹に、茶髪にジャケットの袖を捲り上げ、シルバーのリングやブレスを身に付けた、初めて見る不良風なイケメンの登場に、登校中の女子達は熱い視線を送っていた。
「あー、入りとうなぃ…………」
一際目立つ自分が、周りから注目を浴びているなど全く頭にもない大和は、坂道の先に現れた、白くそびえ立つ西洋のお城の様な正門を前に、足から根が生えたように立ち止まった。
せめて、公立か………欲言えば、工業高校が良かった…………。
「なんで、よりによって…………ボンボン校やねん。適応せえ言う方が、不可能やろ………」
ヤンキー相手に喧嘩をし、ヤクザ相手に啖呵を切って…………女遊びと博打に組家業………つい数日前までしてきた生き方とは、水と油のような真逆の空間に、大和の思考回路は既にショートしそうになる。
「おい、そこ………邪魔」
一歩を躊躇する大和が、門を見上げ、柄にもなく深呼吸をしようとした時だった………大和の気分を逆撫でする言葉が、耳を掠めた。
「…………は…………?」
邪魔?………この、俺が…………?
昨日までの大和なら、この時点でぶちギレして、相手の顔を見ないうちから手を出していた。
しかし、父親から『破門』をチラつかされている今、その感情は、やや大人の対応を見せる。
「邪魔って、何やねん。人が通れるスペース、他にもあるやろ?どのツラ下げて、生意気言うてんね…………」
大和なりの、大人な対応で、言い掛かりをつけてくる相手を見ようと振り向いた瞬間、大和の目は、その相手に釘付けになった。
「え……………女………」
ドスッ…………!
「……………っ………!」
「誰が、女だ…………」
不覚にも、相手の拳を鳩尾に受け入れてしまった。
大和は鳩尾を押さえ、つい『女』と言ってしまった相手を、もう一度見直した。
いや、女より綺麗だ…………。
「お、お前なぁ…………いきなりは、卑怯やぞ……」
卑怯な事ばかりしてきた自分が言うか…………そう心で突っ込みつつ、大和は目の前に立つ男子高生から、目を逸らす事が出来なくなっていた。
栗色の柔らかそうな前髪を横に流し、髪の間から覗かせる瞳の、なんとも美しい事…………。
くっきりとした二重に長い睫毛、少し茶色かかった潤んだ瞳は、目の合った人間を確実に魅了するだろうと、確信出来る程、惹かれた。
その上、高い鼻の下に構える、ふっくらとしたほのかに紅い唇。………………今まで会った女なんて、比じゃない位の、エロさ。
「俺を、女だなんて言うからだ………」
男子高生は、ムッとした顔で答え、大和を睨んだ。
何故か、睨まれても………嫌じゃない。
大和は、自分の中に妙な違和感を感じた。
今まで感じた事のない、自分でも説明が出来ない違和感…………。
それが、この男子高生を見たからこそ感じている事だけは、理解出来た。
「あーっ!こいつ、颯に見とれてる!!」
はい…………?
見とれとるて……………見とれ……とる?誰が?…………………俺が、か?
大和は、突然聞こえてきた、空気を打ち破る声にハッとして、我に返った。
「………つーか、こいつってな………ボンボン校の癖に、礼儀のなってへん奴ばかりやな」
大和は頭を掻き、耳障りな声の主を探す。
「翔太…………」
「おはよぅ♪颯~!」
主は、即座に現れた。
大和に手を出してきた美少年と言うべき男子高生に、挨拶をしながら思い切り抱きついて来たのだ。
「……………マジ………」
男が男に抱きつく…………それも、嬉しそうに。
大和は、いかにもジャ○ーズにいそうな風貌の、煩そうな男子高生の登場の仕方に、心底ドン引きした。
「も~駄目だよ、颯。こんな、柄悪そうな奴に近付いたらっ!襲われちゃうよ?」
「……………お前、笑顔でホンマ失礼連発してくれんねんな。初対面やぞ、俺ら」
翔太と呼ばれた男子高生の発する暴言に、さすがの大和も顔をしかめる。
父親の忠告がなければ、本当に、殴ってた。
「何やってるんだ………っ」
そしてまた、親衛隊のお出まし………。
「おいおい、勘弁せえや…………」
大和の視界に、また一人、男子高生が入って来る。
いかにも優等生と言う雰囲気を漂わせる、長身の甘いマスクをした男前が、大和の前を横切り、美少年に近付いた。
「颯…………あまり、心配させるような事しないで。ほら、遅刻するから行くよ」
「………淳………っ」
大和の方を見向きもしない男前は、美少年の手を握ると、有無も言わさず引っ張って歩き出す。
その後を、つかさずジャ○ーズ系翔太がついて行く。
「な…………何や、コレ。事故に遭ったんは、俺やろ?無視か!?無視で終わりか!?しかも俺、流れ的に悪役みたいやん!……………た……たち悪いで、ボンボン!最悪や…………」
ワケわからず絡まれ、ワケわからず去って行った事故のような出来事に、大和は胸に残されたモヤモヤを、納得いかない様子で露にした。
「………………元はと言えば、あいつが…………」
大和の目線の先にいる、あいつ。
仲間達に囲まれ、引っ張られて行く、あいつ。
「颯……………とかって、呼ばれとったな………。颯…………颯……………か……」
綺麗な、名前やな……………。
「見た目と、一緒で…………」
見た目と…………………。
「ハッ……………な、何言うてんねん…………俺………っ」
男である颯を意識した言葉を吐く自分に、大和は咄嗟に口を押さえて、動揺した。
何で…………?
何で…………?
でも、何かが…………引っ掛か。
ずっと、父親の背中しか見て来なかった。
ずっと、父親のように、強い男になりたかった。
それ以外……………興味がなかった筈なのに。
心が、騒ぎ出す。
大和の中の何かが、動き始めた。
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