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想い合う心
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校舎を望む空が、茜色に染まり、遠くに月がうっすらと輝きだす放課後。
学校の広いグランドでは、野球部やサッカー部などの運動部が、各々練習を切り上げ始めていた。
その様子を眺めながら、颯はフェンスの外でベンチに座り、淳を待っている。
大切な話………………そう思うと、心臓がドキドキする。
「はぁ~っ、やっぱり観月先輩、カッコイイ!」
「頭も良くて、スポーツも万能で…………言うことないよね~」
近くで、一年の女子達が淳を見つめ、騒いでた。
「………………淳って、ホント万人にモテるよな………」
小学生の時から、同級生からも先輩後輩からも、先生達からも、好かれていた。
才色兼備、そして、とても誠実で優しい。
汗をかき、片付けをしながら部員達と談笑している姿も、どれだけ好かれているか伝わってくる。
「彼女、いるのかなぁ…………」
女子の一人が呟く。
「……………最近はいないって、聞いたよ。色んな子が告白しても、『好きな人がいるから』って断られるんだって」
「え~!誰なのかなぁ?片想いってこと?」
「いいなぁ……………片想いされた~ぃ」
好きな人……………その一言に、颯はドキッとした。
そうなんだ……………淳、そう言って断っているんだ……………。
初耳な話に、変に意識してしまう自分がいる。
「颯…………っ!」
女子達の話にボーッと考え込んでしまっていた颯に、部室に帰りかけた淳が、駆け寄って来た。
勿論?近くの女子達はキャーキャー言って喜んでる。
「……………淳………」
「ごめんな、待たせて。すぐシャワー浴びて来るから、もう少しだけ待っててもらってもいい?」
「俺は、大丈夫だよ。急がなくていいから、ゆっくりして」
「ありがとう、颯」
爽やかだ。
男前は、汗まみれでも、男前。
笑顔でお礼を言う淳に、颯は感心する。
さすが、淳……………大和に負けてない。
タイプが、極端に違う二人。
人気は、二分する。
いかにも不良(いや、本職さんですが)っちくで、イマドキなイケメンの大和と、
優等生で正統派なイケメンの淳。
女子達は、どちらがNo.1か秘かに競っている。
そんなイケメンが、二人して男の颯に恋してるなんて………………誰が思うだろうか。
人生は、わからない。
だから、面白い。
「………………颯、お待たせ」
日はすっかり傾き、部活を終えた各運動部員達は、足早に部室を後にする。
シャワーを浴びてきた淳は、大きなスポーツバッグを肩にかけ、颯に声を掛ける。
「お疲れ様、淳…………」
颯が振り向くと、淳は然り気無く颯にドリンクを手渡す。
「え……………」
「喉渇いただろ?颯、好きだったよね?レモンティー」
………………こう言う所が、モテるんだ………。
多分、さっき校内にある自動販売機から買って来たのだろうが……………いつの間に?
改めて、淳の気配りに、颯は驚かされる。
………………こんなに優しくされると、とても言いづらい。
レモンティーを受け取りながら、颯の心は揺れた。
「まだ、学校閉まらないし、ちょっと座ってもいい?」
淳は、ベンチに座る颯の隣を指差し、訊ねる。
「あ、う………うん…………」
月明かりと、点々と備えられた外灯が、ほのかに二人を包んでいた。
淳の肩が触れそうで触れない………の距離感が、何だか焦れったい。
今日は、とても近くて、遠くに思えてしまう…………。
………………横が、向けない。
颯は、レモンティーを握りしめ、俯いた。
「……………颯、緊張してる?」
長い付き合い、相手の事は嫌でもわかる。
それが、好きな相手なら、特に。
「…………は………!?…………あ……………いや………」
颯の胸の内を悟るような淳の言葉に、颯は思わず淳の方を見た。
「クス……………可愛い。わかりやす過ぎ」
淳は微笑んで、颯の頬に手を添える。
「じゅ……………」
身体が、熱い。
上手く、喋れない自分に、颯は戸惑う。
好きだと言われて、意識しない人間はいない。
ましてや、淳のように人気者。
微かに聞こえる運動部員達の声が、颯の動揺を高める。
「だ、駄目……………誰かに、見られちゃうから…………」
弱々しい声で、そう言うと、颯は顔に触れる淳の手を自分の手で避けようと握った。
「見られてもいいよ。お前への気持ちを、隠したくない」
「…………淳……………っ」
ストレートな言葉に、颯はますます追い込まれる。
背中を押してくれた大和を、傷付けたくないのに……………身体が、動かない。
「ずっと、会いたかった……………大和といる所見る度に、心が引き裂かれそうだった」
「……………じゅ…………ん…………」
胸が、痛い。
そんな事言わないで………………。
颯はたまらず目を伏せた。
淳の想いに、涙が溢れそうになる。
大和と、変わらない。
凄く、愛されているのが伝わってくる。
ちゃんと話しなきゃって、来たのに…………。
なんで、こんなに苦しいんだろう。
「………………颯、苦しめて…………ごめんね」
淳の辛そうな謝罪が、颯の頬に我慢していたものを、一粒一粒溢れさす。
「淳が……………謝る事じゃない…………」
絞り出す声に、息が詰まる。
大和も、淳も、自分には本当に勿体無い。
颯は、身体を丸め、二人の想いに流れる涙を止める事が出来なかった。
愛される事が、こんなに辛いなんて……………。
口に手を当て、声を殺すように泣く颯に、淳の胸は締め付けられる。
ただ一途に恋したいだけなのに、恋した相手を苦しめる程、悔しい事はない。
「………………情けない……………やっと、『好き』って言えたのに…………………お前を、泣かすなんてな」
颯に自分のハンカチを渡しながら、哀しそうに淳は微笑む。
「ご、ごめん………っ…………俺が、泣き虫だから….…」
淳のハンカチで涙を拭い、颯は慌てて顔を上げた。
泣き虫……………颯が泣くのは、三人の前だけ。
海と大和と……………淳。
翔太の前では、泣かない。
翔太の方が、弱いから。
他の生徒達の颯のイメージは、『クールビューティー』……………誰も泣き虫だとは、思っていない。
それだけ、三人が『特別』だと言う事。
「泣き虫じゃないよ。人より、感受性が強いだけ」
それは、淳もちゃんとわかっている。
だから、守りたい。
海や大和と、気持ちは同じ。
「……………ねえ、颯…………」
「な、何………………?」
淳の長い指が、颯の細い指に絡み合う。
「………淳……………っ」
颯の手が、微かに動揺する。
その動揺ごと、淳は温かく包み込む。
「お前が、大和を好きでも…………俺は、もう引かないから……………」
「………………え…………」
「その事、言いに来たんだろう?」
「あ………………」
自分の行動が読まれている事に、颯は言葉が出ない。
さすが、幼馴染み。
よく理解している。
「苦しめるってわかっていても、止められないんだ。…………………俺の、初恋だから………諦めたくない」
「………初………………恋…………?」
初恋……………て、俺が?
夜風が、身体に染みる。
気持ちが、複雑に交差する。
大切な幼馴染みの、初恋が……………自分。
考えていた言葉が、何も言えなかった。
「……………本当に、ごめんな」
いつの間にか現れていた星空を見上げ、淳は呟く。
泊まりの日から、淳の『ごめん』ばかり聞いてる。
恋は、悪いこと?
嫌われる覚悟で話しに来たのに、もっと『好き』を貰ってしまった。
颯は、淳の横顔を見つめた。
少し濡れた髪が、淳の端正な顔立ちを、一段と艶っぽくしている。
淳のファンが見たら、泣いて喜びそうな姿。
側にいる事が当たり前過ぎて、その魅力を見失いかけてた。
情けないのは、自分だ。
愛されるだけでは、守られるだけでは、何も返せない。
守れる人に、なりたい。
大切な人達を幸せに出来る人に、なりたい。
皆、純粋に恋しているだけなのに、どうしてこんなに………………苦しいのだろう。
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