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ヤン・テソプ
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良く晴れた日の朝。
何時ものように早起きをして、愛する者のために朝食を作り、寝室のカーテンを開けて光を招き入れ、俺は優しく彼を揺り起こす。
「 テソプ。朝だぞ 」
「 ん…ん~… 」
「 早く起きないと、ディープキスするぞ。飛び切り濃厚なヤツ… 」
言葉の途中で、テソプが寝癖で跳ねまくる髪を揺らしながら飛び起きた。
…いや、そんな飛び起きなくても…
俺は寧ろ起きないお前に、飛び切り濃厚なディープキスをお見舞いしたかったのに…
残念そうに項垂れる俺の頬に、
小さく笑いながら彼はそっとキスをした。
「 おはよう。ギョンス 」
朝の光を背に受けたお前が俺には、神々しいまでに輝いて見えた。
「 ?ギョンス?どうした?そんなに僕にディープキスしたかった? 」
からかうように笑いながら、俺に屈託のない笑顔を向けるお前が可愛いくて、
思わずそのサラサラの髪を、くしゃくしゃと撫でた。
「 !おいっ!やめろよ~ 」
テソプは、髪を撫でられたりするのが好きじゃない。
「 子供扱いするな 」だそうだ。
だが俺はめげずに不意をついては、くしゃくしゃとやる。可愛いから。
俺の愛しい愛しい彼は、ヤン・テソプ。
大学病院に勤務する、真面目で評判の良い内科医だ。
少々気難しくて神経質なところがあるが、そこもまた愛おしい。
神経質で潔癖で禁欲的。
実際ファーストキスに漕ぎ着けるまでに1年かかった。
いい年の大人の男がキスに1年…
俺も我ながらよくやっていると自分自身に感心する。
それだけ、愛しく、大切に思っているという事を、こいつはちゃんと認識しているんだろうか…たまに怪しくなる(笑)。
何せこいつは、鈍くて天然の箱入り息子だから。
テソプの家は、海を見渡す事の出来る丘の上で、ペンションと蜜柑農園を営んでいる。
明るく誠実で働き者の父親と、強くて優しい料理研究家の母親、
一家の要的存在の祖母、ペンションを手伝いながら、スキューバダイビングの講師を勤める弟とその妻、
スタイル保持とストレス解消の為にK-POPダンスを毎日欠かさない大学生の妹、蜜柑農園を手伝いながら、アルバイトをしている叔父、
大手ゴルフ場で勤務し、専務(女性)の片腕として日々手腕を振るう叔父、
叔父のゴルフ場に勤務し、同じ敷地内に住む妹とその夫と娘…という大家族の長男だ。
紆余曲折の末に、テソプは家族に自分がゲイであることをカミングアウトした。
いや、せざるを得ない状況に追い込んだのは俺だった。
当時俺の母は、体裁や世間体しか頭にない人で、俺が元妻にゲイをカミングアウトして離婚した事が許せなかった。
母にとって、大学教授である父の地位と、裕福な暮らしが第一だった。
あろうことか、母はテソプを脅し、俺と別れさせようと、あの手このてでテソプを苦しめた。
いくら俺に責任があるとはいえ、俺との幸せを手放そうとするテソプを、俺は許せなかった。
俺は、当時テソプの母の料理の撮影を任されていた。
俺は撮影でテソプの家を訪ねた時、どうしても会いたくて、話をしたくて、部屋に押し入り、テソプを抱き締めた。
そこを運悪くテソプの妹に見られてしまい…挙げ句にカミングアウトせざるを得なくなった。
だが、その時テソプの妹は、テソプに、
「 ごめんなさい…私が居合わせなければ兄さんは苦しまなくて済んだのに…
ごめんなさい…ごめんなさい…本当にごめんなさい… 」
何時までも泣き続け、一生涯心の奥底に仕舞うから、誰にも話さなくていい…とテソプに話したが、そこでテソプは、潮時だと、自分ももう解放されたいと…
そう、決心した。
確かに俺はテソプに、このまま隠し続ける人生を選ぶか、
若しくは、カミングアウトをして、自分らしく生きていくか、はっきり選ぶべきだと…
思えば、そう迫る事で、俺がテソプを苦しめ続けてきたのだろう…
それでも…それでも俺は、彼に自分の生き方を選んで欲しいと願っていた。
結果的にテソプは、自分らしく俺と共に生きる事を選んだ。
死がふたりを別つその時まで…
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