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深い愛情
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「…ごめんなさ…い」
やっと心臓から絞り出した言葉だった。
僕はただ、先輩に謝ることしか出来なくて、情けなくて、僕が同性愛者ということを、先輩は、思いもよらなかっただろうに…と思ったら、申し訳無くて、申し訳無くて…
「何故お前が謝るんだ?お前は悪くないだろう。
俺が勝手に想っていただけなのだから。
だから、泣くな。テソプ」
先輩は僕の身体ををゆっくりと起こし、
優しく抱き締める。
それはまるで、僕がカミングアウトした時に、優しく受けとめて抱き締めてくれた父のように…
優しくて、大きな強さで、先輩は僕を受けとめてくれた。
「先輩…じ…つは、僕…僕は…」
僕は真実を先輩に話すべきだと思い、
僕自身今でも一番怖いその言葉を口にしようと、先輩に視線を合わせた。
「…ああ。解っていたよ」
…え?
「先…輩?」
…ナンテ?
「お前も、同性愛者なんだろう?
初めて会った時に、ピンときたよ。
俺と同じ匂いがする、ってな。
…俺自身は人に話す必要が無かったから、意識はしなかった。
だがな、他人が、となれば話は違ってくる。
例えば、俺が気持ちを打ち明けたとして、仮に付き合うことになったとする。
そう考えた時にやっと『違うんだ』と俺は気付いたんだ。
愕然としたよ。
俺自身ならまだしも、お前が周りから差別的な眼で見られることを想像したら、
怖くなってな…
見るからに生真面目なお前のことだ、
俺のように図太くはなれないだろうから、きっと傷付いて傷付いて、仕舞いにはお前は自分で自身を壊してしまうだろう、ってな。
だから…俺は、自分の気持ちに蓋をすることにしたんだ。
生きているお前と、共に生きる為に」
僕は言葉を失った。
これだけの深く強い愛を、自分が受けていたことに愕然とした。
ギョンスは、同性愛者である自分を曝け出して、堂々と生きろ、と僕に迫り続けた。
その方が楽になれる、と。
僕は正直、今でも解らずにいた。
カミングアウトすることと、隠して生きること。どちらが正しいのか。
誰も傷つけずに、みんなが幸せに…なんてこと…本当はあり得ない。
いつだって、誰かが傷付き、その涙の上に、僕等それぞれの笑顔や安定した生活が成り立っている。
命だってそうだ。
誰かの死の上に、僕等の生がある。
先輩の苦悩を知らずに、僕は無神経無邪気に笑っていた…
なんてことだろう…
僕はどんな顔で先輩と話せばいいのだろう…
いつまでもウジウジ悩む僕の心の中を知ってか知らずか、先輩は不意に僕の髪をクシャクシャッと撫でて言った。
「そんなシケた面するな!
俺はな、お前の笑顔が好きなんだよ。
普段は生真面目で神経質そうなお前が見せる、屈託の無い無邪気な笑顔が好きなんだよ!笑え!ほら!」
豪快に笑う先輩に、不意打ちを食らった僕は、ポカンとして、直ぐに思わず吹き出した。
この人は、こうして僕をずっと見守って居てくれたのだと、そのことを本当に有難いと感じ、僕は深く感謝をした。
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