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予兆
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その日は朝から何だか胸の辺りがザワザワして落ち着かなくて、常に不安を駆り立てられている感じがしていた…
「 テソプ、どうした?顔色が良くないぞ… 」
不意にギョンスに声を掛けられ、
ハッと我に返り引き攣った笑顔を向ける。
「 あ…ううん、別にどうもしないよ。当直明けだからかな。はは… 」
力無く乾いた笑いを漏らし、またぼんやりしてしまう…
すると突然鳴り響く携帯の着信音に驚き思わず肩を跳ね上がらせてしまう。
着信表示には、『父』の文字。
胸騒ぎに何とか抗いながら、通話ボタンに指を掛ける。
「 あ…父さん? どうしたの? …うん…うん…うん………… 」
眉間に深い皺を寄せて深刻な面持ちの僕の背中を、ギョンスが優しく擦ってくれている。
そのお陰で、今はまだ冷静さを保てていた…
母が倒れた。
いつものように、助手のヨンジュさんと共に雑誌の取材を受けていた最中に、突然頭が痛いと訴えその場に倒れ、僕の勤務先の大学病院に救急搬送された、との知らせだった。
当直明けで自宅に居た僕は、ギョンスに抱えられながら直ぐに大学病院へ駆け付けた…
直ぐさま血液検査と脳のMRIを撮り、今母は鎮痛剤で眠っている。
僕とギョンスは、脳神経外科の診察室に居た。
目の前では深刻な面持ちでMRI画像を見詰めながら唸るジュニョン先輩の姿があった。
「 ……此までに身体の不調を訴えていた事はあったか? 」
「 急激な変化は…把握していません…。 更年期障害の影響で、鬱病を併発し、通院、投薬を継続中でした。 元々偏頭痛の症状があり、血圧測定、血液検査は定期的に行っていましたが、ここ2~3年は、仕事が忙しく中々行けない状況だったと聞いています…… 」
ジュニョン先輩は深刻な眼差しでMRI画像を見詰めたまま、口を開いた。
「 うむ。。この画像を見てテソプも分かっているだろうが、数箇所に小さな梗塞が見られる。 此までも何度か発症していたようだ… 」
ジュニョン先輩の言葉に、僕は項垂れる…
僕がもっと早く気付けていれば…
僕がもっと傍に居てさえいたら…
悔やんでも悔やみきれない…
今にも胸が張り裂けそうだ…
僕は医師だ。
このような状況には、数え切れない程遭遇してきた。
対応も心構えも熟知している。
それなのに…それなのに……
『身内』『家族』であることが
こんなに辛いなんて…
僕は『分かっているつもり』で居ただけ……
本当の苦痛は、当事者や家族、支える者にしか分からないものだ……
そんな事は分かりきっていた筈……
そんな事は……
「 …い! おい! テソプ!しっかりしろ! 」
ぼんやりする僕の膝を強く揺らし、ジュニョンが声を荒げている。
「 あ…せんぱ… 」
手足に力が入らない…
呼吸はどんどん浅くなる…
でも
僕は医師だ。
僕は長男だ。
僕がしっかりしないと!
僕が、母さんを守らないと!
膝の上の拳を強く握ると、温かい掌が、僕の拳を優しく包む。
「 ギョンス…… 」
「 大丈夫だ。 大丈夫。 」
ギョンスが、心配そうに、真剣な、眼差しで、何度もそう声を掛けてくれている。
「 そうだぞ。テソプ。 まだ諦めるには早過ぎる。 今はお母さんの生命力を信じようじゃないか。
俺も、最善を尽くすよ 」
「 先輩… ありがとう…ございます。 宜しくお願いします…… 」
僕、深く深く頭を垂れながら、グッと涙を堪えていた。
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