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神保町と都。
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あ、…都の事忘れてた。笑
「あぁ、そうそう、。……こいつ都っつってーー……」
俺がそう言いながら後ろの都をチラリと見ると、うつむいていた都がじろ…っとおばちゃんに視線をずらした。
………おいおい、……いくら人と関わるの嫌でも会釈くらいしとけよ……それにおばちゃんだってあんま人付き合い得意なタイプじゃないし、……。
つーか、ここに人付き合い上手い人誰もいないってやばくねこの状況……
都と二人な事ですらこの先どうなるのかと不安だったのに、ラスボス現る的な展開でさらに地獄……
案の定おばちゃんもいつもより目つき悪い目で都の事をジーー……と見たまんまだし、……
俺にどうしろと、……
そんな二人をみながらジワジワ冷や汗を感じ、このままじゃやばいな…、と焦った俺は、本当に不覚にも
「………あ、……っ、おばちゃん、こいつ喋れねぇから、。!」
と少し笑を含みながら、そう言っていた。
それはもう本当に、朝の挨拶のようにスラっと勝手に口から出たのだ。そう、そりゃもう咄嗟に、不意に、不覚にも、ポロリと簡単に口から出てたのだ。
その俺の発言に今まで都を睨んでいたおばちゃんが驚いた顔をして俺を見上げ、「……、そうなのかい、。…………それなら早くいいなよ、。」と眉を下げる。
そんなおばちゃんに対し、都の方は俺とは逆方向へと目線をずらした。
その瞬間に俺はハッとした。
…………俺、……今、なんつった、……?
こいつが喋れない事で、……納得させようと……した、……?
当たり前のように、…こいつが喋れない事……、言い訳にしようとした…………?
………………、それって、……
…………すげぇ、……最低……だ、。
今までこいつが喋らない事を一番腹立たしく感じていた、。
さっきだって感情出せって言ったばっかだし、…こいつに対して喋らなくても感情表現はできるのになんでしないのかって不服に思っていた。
だから、喋れないフリするのだってはっきり言って無意味に等しい、と……、だって現になんらかの事情で声が出ない人でも普通に生活してるだろ??、
喋れないから感情も消えてしまうなんて、話せないから自分を伝えなくてもいいなんて、そんなのそういう人たちに対してすげぇ失礼だ!!……って思ってた。
…………のに、……そう思っていたはずなのに、……
今、自分で咄嗟に口に出して気付いた
"喋れない事"は感情を出せない事とは無縁だけど、
"喋れない事"は感情を出さない事の強い言い訳にはなる。
"喋れないから自分を的確に表現できないんだ"
"喋れないからこの人と話すのは不自由なんだ、"
…………"喋れない"という事実は、無抵抗なまでに健常者にとって該当者との間に壁を作る理由になるのだ、。
ふと俺はもう一度後ろにいる奴に目を向けた。
相変わらず目を逸らして俯く都。
…………こいつはこうして今まで他者に諦めさせてたんだな、……
自分から壁を作るのではなく、…敢えて相手の方から壁を作らせて、……悪い言い方をすれば、そうやって同情をかってきた。自分から喋れないことをすべての言い訳にしてきたのだ。
しかも、都の場合"喋れないフリ"だ。……実際は多分喋れる。
……都はそれをわかってずっと昔からフリし続けてるんだ、多分。
……それって、……どうなんだ、……?
……頭いい、っていっていいのか、……?
本当に喋れない人とか、喋りたくても喋れない人たちにとっては、他者から壁を作られてしまう事はすげえ嫌な事だよな、…?喋れないからって言い訳にされるなんてすげぇ苦しい事なはずだよな……?
………、そうだ、そうに決まってる、。
やっぱり喋れない事はなんの理由にすらならない、。
絶対に言い訳にしちゃいけない、
だから俺は喋れないフリをしている都に常に苛立ちを感じなければならないのに、……
……もしかすると俺は、そう思っていながらもどこか反面で、気づかないうちに都との間に薄い壁を作っていたのかもしれない、。
だからさっき、咄嗟に言い訳として使ってしまったのかもしれない、……
………やっぱり俺、……最っ低だ、……
……やっぱり俺は、ガキだ……
「…………それにしても、基が誰か連れてくる事なんて初めてだねぇ、……」
だまりこむ俺たちを見てそうボソッとおばちゃんが俺に話してくる声も今の俺にはあまり届かずに、
……さっきの言葉は絶対に言っちゃいけない言葉だったな、……、、。……本当に喋れない人に対しても最低な言葉だし、……都にとっても、俺だけは言ってはいけない言葉だった、。
頭の中はそんな自責の考えでいっぱいで、
「…………あ、?……あぁ、……だろ?……こいつとは気があうんだ、!」
おばちゃんに返す言葉も完璧に上の空になってしまう。
……さっきのひと言で、呆れられたかもしれない、……。
……もしかしたら都には、「こいつも他大勢と一緒か、……」と落胆されたかもしれない、、おばちゃんにも実は「障害を言い訳にするなんて最低」と思われてるかもしれない、……
鬱々とした考えは俺の中でどんどんと大きくなる。
自分が昔から嫌いだからかもしれない、。
自分が最低だと気付くと、それは頭からこびりついて離れない。
……やっぱり言葉は苦手だ、。
咄嗟に出た無意識下の言葉でも、容易に人を傷つけて一気に信頼を失わせてしまうのだから。
言葉は卑怯だ、……言葉は、…………。。。
「、実はさ、!こいつもユリウスが好きなんだって!」
笑顔でおばちゃんにそう言う。
結局、いつもこうだ、。
鬱々とした悩みの元凶はいつも言葉によるもので、。
「…………、あんたらも本当、物好きだねぇ……。」
呆れた顔でそういうおばちゃんはどう見たっていつも通りのままで
「……!」
本棚に並べられたユリウスをみて都もいつもより嬉しそうな表情をしているのに、
言葉のせいで俺にはその二人が嘘のように見えてしまって、
せっかくのユリウスの話で盛り上がろうと思ってたのに、俺の頭はみんなへの罪悪感と言葉への行き場のない苛立ちで、……全てが上っ面になってしまったのだった。
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